第9章 貴方と過ごす安土~秀吉編~
「三成!政宗!廊下は走るな!」
「申し訳ありません、秀吉様。今回はそうも言ってられないのです!」
「は?」
「おい、三成!天井に行ったぞ!」
政宗さんの声につられて私も秀吉さんも廊下の天井を見る。すると、小さな影が梁に当たって落下してくる。
「っ!」
秀吉さんが駆け出して、その影を受け止めた。
「ふー…」
安堵の息をつく秀吉さんの脇から手の中を見てみると、古い胴締型の茶碗のようだ。
秀吉さんとそれを見下ろしていると、政宗さんと三成君がやって来る。
「捕まえて下さってありがとうございます、秀吉様」
「い、今のは一体何だ?」
全員が茶碗を覗き込む。
「どう見てもただの古びた茶碗だが……」
「秀吉は茶道に長けてるからな。それ関連の霊でも憑いたんじゃないか?」
「これが音の正体、なのか?」
その時、茶器の胴と腰の間に線が入った。次の瞬間、その線から一つ目が覗き、高台辺りから足が生える。
「っ⁉」
「なっ⁉」
「何だこれ⁉」
それぞれが反応を見せる中、私は眉をひそめた。
(こいつは……)
秀吉さんは驚いた拍子に茶碗を手放す。
茶碗は数秒じっと秀吉さんを見つめたかと思うと、軽い足音を立てながら走っていき、廊下の角を曲がる前に煙のようにスッと姿を消した。
「…って、珠紀。お前、驚かないんだな」
「悲鳴でも上げるかと思ってたが…」
「まぁ…慣れているので」
「は?」
目を瞬かせた秀吉さん達を無視して、私は秀吉さんの部屋へと戻る。
そのまま政宗さんと三成君も部屋に入って私に問い詰める。
「お前、あれが何なのか知ってるのか?」
「えぇ、まあ」
「教えてくれよ」
「私も興味があります」
身を乗り出してきた政宗さんと三成君に、私は仰け反った。
(ち、近い……っ)
私は二人を押しやって、秀吉さんと向かい合った。
「秀吉さん、お願いがあります」
「ん?」
秀吉さんは疑問符を浮かべながら姿勢を正してくれる。
「私を少しの間、秀吉さんの御殿に滞在させて下さい」
「何?」
「は?」
「珠紀、お前何言って―――」
「念の為です。杞憂であれば、それで良いだけの話ですから深く考えなくて大丈夫です」
「落ち着け。とりあえず分かるように説明してくれ、珠紀」
「さっきの茶碗は、影茶碗という妖モノです」
「影茶碗?」