第9章 貴方と過ごす安土~秀吉編~
そのまま自然と収まるのを待とうかと思ったが、町娘も然り、人々も秀吉さんに気付いて人がどんどん声をかけたり、押し寄せたりして途絶えることがない。
(まぁ良いか。仕方ない)
私は時間潰しのために側で露店を開いている店主に声をかけた。
「こんにちは」
「いらっしゃい。ん?あんた、見たことない顔だな」
店の主人は顎に手をやりながら私の顔を覗き込んでくる。
「えぇ。ついこの間に来たばかりなんです」
「そうか。ゆっくり見て回んな」
「はい」
店主にそう微笑み返して、私は改めて並べてある小物や簪を眺めた。
城下の賑わいを目や耳で楽しみながら、その後も色んな店の人に声をかけられたり、流通している品物を見て会話したりと時間はあっという間に過ぎていく。
その後、秀吉さんと何とか合流を果たし、御殿に足を踏み入れる。
「お、お邪魔します…」
「そんな緊張しなくて良い」
秀吉さんが苦笑しながら部屋に招き入れてくれる。
部屋は秀吉さんの性格を表すように物が整理整頓されている。
秀吉さんが立ててくれたお茶を飲み、雑談していると、廊下からパタパタと軽い足音のような物音が聞こえてきた。
(何…?)
「……またか」
「また?」
「あぁ。ここ二週間くらいかな。
女中達が手の平くらいの小さな影を見たり、今みたいな足音が廊下や天井裏を駆け回っているんだ。多分鼠だと思うんだが……」
「…………」
私は目を瞑って気を集中させる。
(―――こっちに来る…でも、小物だ。悪さするなら追い払えば済む話だよね)
近付いて来る微かな妖気を感じながら、私は気を取り直して秀吉さんが出してくれたお茶に口をつけた。
「美味しい…」
「お前の口に合って良かった」
二人で微笑み合い、和やかな雰囲気になったその時だった。
「急ぎましょう政宗様。秀吉様の御部屋に入る前にあれを捕まえなくては」
「お前、本当にそんなの見たのか?俺は影しか見てないが、害があるとは思えないんだが…」
「怪しい者を捕らえておくに越したことはありません」
「まぁそうだが……っ、いたぞ!あっちだ!」
(何を騒いでるんだろう…)
「三成と政宗か。何を騒いでいるんだ?」
「さぁ…」
秀吉さんが襖を開けて大声を上げる。