第9章 貴方と過ごす安土~秀吉編~
「それに、この前は妖討伐?とかで落ち着いて城下を見られなかっただろ?改めて連れて行ってやる」
気兼ねないお出掛けという響きに、思わず頬が緩んだ。
「ありがとうございます」
頭を下げると、優しくぽんぽんと頭を撫でられ、笑顔を向けてくれる。それは監視役として四六時中張り付いていた時と違って眩しいくらいだった。
商人達の呼び込みや絶え間ない世間話、子供達の騒ぐ声が溢れ、町は活気に満ちている。
みずみずしい果物や魚の干物、炭火で炙った肉、い草やお香、色んな物の匂いが漂って来る。
(確かに前に城下を見に回った時は、気持ちがそれどころじゃなかったからな……)
改めて賑やかな城下を見ながら、現代の風景を思い浮かべる。
(考えてみると、現代はひたすら時間や決められたことに追われてるな……ここでは、命の儚さが現代よりリアルな分、人々がその重みを分かって日々を精一杯に生きてる)
「珠紀?」
不意に秀吉さんに至近距離で顔を覗き込まれる。
「……っ。な、何?」
「ぼーっとしてると転ぶぞ」
「だ、大丈夫です。ちょっと考え事をしてただけですから」
慌てて誤魔化したその時、黄色い歓声が耳に届いた。
「ん?」
(何?)
声のする方を見てみると、町娘達が大勢、笑顔を浮かべなから土埃を立てて駆け寄って来ていた。
「秀吉様ー!」
「お久しぶりです、秀吉様!」
「お会いしたくて仕事はさっさと終わらせてきました!」
「城門まで押しかけようか迷ってたのよ」
「なに大袈裟なこと言ってるんだ。お前達、忙しいんだから、無理するな」
あっという間に秀吉さんの周りは町娘達が囲み、私は勢いに圧倒され、輪の外であんぐりとその様子を眺めた。
(……天然人誑し)
「秀吉様、次はいつ御会い出来ます?」
「あぁ、ずるいわ。秀吉様、美味しいお茶をいただきませんか?」
「落ち着け、お前達。女に誘わせたり出来るか。一段落したら文を送る」
「いつまでも待ってます‼」
(アイドル並みの人気者だな、秀吉さん……まぁ、それもそうか)
秀吉さんは細やかな気遣いを自然に行うことが出来て、親切で優しい。信長さんに対しての忠義心も本物だ。
(イケメンで優しくて、職柄は戦国武将。織田信長の右腕で人徳も申し分ない……考えてみたら、モテないわけがないな、この人。うん)
妙に納得して頷いた。