第9章 貴方と過ごす安土~秀吉編~
「あ、そうだ。珠紀、手を出せ」
「手?」
わけが分からぬまま言われた通り手を出すと、政宗さんが手の平を上にして小さな袋を乗せた。
「これは?」
「謝礼だ」
「は?」
「廊下も気持ち良いくらい綺麗になってるし、俺の羽織直したのお前だろ?その謝礼だ」
「えっ」
思わず手のひらに乗せられた袋を見る。嬉しいと思うと同時に私は慌てて首を振った。
「これはっ、御世話になった返礼です!だからお金なんて……」
「良いから取っとけって。信長様だったら、これと比にならねぇくらい出すと思うぞ」
「…………」
それもそうかもしれないと思っているうちにいつの間にか政宗さんと光秀さんの姿は消え、結局袋を受け取ることになってしまった。
(どうしよう、これ……
あ、でもここから季封への旅費として考えれば良いんだ。
本当はこれで何かを買って皆さんに御礼をしたいところだけど、名だたる武将達なら良い品は持ってる筈だから、それはまた考えよう。買うよりも作る方が良いのかもしれない……)
そう考えながら廊下を曲がろうとしたその時、顔面を何かにぶつけた。
「うぐっ」
ぶつけた鼻を押さえながら衝撃でバランスを崩した私は、次の瞬間たくましい腕に支えられる。
「おっと。すまん、大丈夫か?」
見ると、秀吉さんが傾いた私が倒れないように支えてくれていた。
「はい、平気です」
「もしかして、まだ具合が悪いのか?」
「い、いえ。ちょっと考え事をしていただけなので」
「何かあったのか?」
「大したことじゃないので大丈夫ですよ」
(正直に言ったら全力で止められるうえに、下手したら贈り物を受け取ってもらえなさそうな予感がする……)
「そうか。だったら良いが……もし光秀や政宗に何かされたら遠慮なく俺に言え」
(もう既に政宗には抱きつかれてます―――なんて言ったら、秀吉さんが近いうちに心労で倒れそう……)
「…はい」
「そうだ。珠紀。お前この後、時間あるか?」
「えっと、そうですね。粗方掃除とかは終わってますし、大丈夫です」
「よし、じゃあ俺の御殿に行くぞ」
「え、今からですか?」
「ああ」
「でも…政務があるのでは……」
「大丈夫だ。俺の茶をもてなしたいんだ」
「秀吉さんの、お茶…」
(確か秀吉さんは、茶道の達人としても有名だっけ)