第8章 貴方と過ごす安土
妖討伐を終えてゆっくりと霊力を回復させていた私だが、目が醒めた時から身体は倦怠感や節々の痛み、頭痛などを訴えていた。
ここまで症状が出ていたのだから大人しく休んでおくべきだったのだと改めて反省する。
だが今自分がいる場所は、同じ日本とはいえど、現代の常識など通用しない、見知らぬ五百年程前の時代の安土城。
唯一現代仲間の佐助君は安土の敵である春日山の一員でここにはいない。
この乱世に飛ばされて行く宛もなかった私にとって、強引とはいえ信長様が安土城に迎え入れてくれたことは、今では感謝している。
だが、だからと言って私がここにいて良い理由にはならない。
私はこの時代にはいる筈のない人間なのだから。
タイムスリップのことは誰にも話していない。
話したところで信じてくれる可能性は限りなく低いし、頭を打ったとか、夢物語だろうとか言われるのが関の山だろう。
私自身も当事者になるまでは、小説の中だけの出来事だと思っていた。
成り行きとはいえ、私が死ぬ筈だった織田信長を助けたことで歴史は大きく変わったことは間違いない。
それが家にどれほどの影響を与えるのか見当もつかないため、早急にここを出て季封に向かいたいが、信長さんの忠犬こと秀吉さんや左腕の光秀さんが、今尚私を何処ぞの間者ではないかと警戒し、監視役として傍に張り付いているのが現状だ。
妖討伐に関しては奇跡的に城下に出られたが、今後は城から出ることさえ難しいのかもしれない。
誰にも私の素性を知られてはいけない。
誰にも弱みを見せてはいけない。
これ以上彼等に付け入る隙を与える訳にもいかない。
そう思いながら過ごし、結局、気を許したことはなかった。
おそらく一度に訪れた身に余る事態に、頭での理解はしていても身体は限界だったのだろう……
記憶は庭先で倒れた瞬間から途切れていて、何故か今は充てがわれた自室で布団の中で横になっている。
「っ…気付いたか、珠紀」
目を開けると、ホッとしたような秀吉さんが顔を覗き込んできた。
(見舞いに、来てくれたのかな…)
朝方のような不調は感じられない。
まだ本調子とは程遠いが、幾分かマシになったようだ。
秀吉さんが身を起こした私の額に手を当てる。