第3章 森にて
一方逃げ出した私はというと―――。
(何でこんな目に遭わなきゃならないのよ…!)
小石や枝が身体のあちこちに当たりながら、かなりの距離を走り息が上がっていた。
(ひょっとして私、助けちゃいけなかった人を助けて歴史変えちゃってる?
でもあの時は咄嗟だったし。目の前で危ない状況の人を見捨てろって言われる方が無理だよ…
…というか、逃げて来ちゃったな……あの人のことだから追いかけて来そう。もっと遠くに行かないと……)
「夜分に女子が独り歩きとは……」
「⁉」
(今度は何⁉)
僧侶の衣を身にまとい、錫杖を持った人がこちらに向かって歩いて来た。
月明かりに照らされたその顔を見た途端、思わず眉を寄せる。
額から頬にかけて何とも痛々しい刀傷が見て取れた。
(…痛そう…)
「どうなされた、お嬢さん」
「あ、あなたは……」
「私は顕如と申す旅の僧だ。何か困ったことがあるなら相談に乗ろう」
「いえ、その気持ちだけで十分です…」
ただならぬ雰囲気に悪寒がし、思わず後ずさってしまう。
「なら、早く家に帰ると良いお嬢さん。夜の森は鬼がうろついているからな」
「御親切にどうも。顕如さんも傷、御大事になさって下さいね」
小さく頭を下げて別方向に走り出す。
私は闇雲に枝が多く通りづらい道を進んで行く。
信長が寄越すと思われる追手の人達が馬を使うだろうと踏んだからだ。
(…もうどれだけ走ったのかな。ここ何処だか分かんないし…何で走ってるんだろう、私は)
考え事をしながら進んでいると、突然目の前に現れた人影にぶつかってしまった。
「きゃ…」
「うわっ」
よろめいたが、ぶつかった人―――私と年の変わらなそうな青年が支えてくれた。
「あ、あの…ごめんなさいっ」
思わず頭を下げる。
「あ、いや…こっちこそ悪かったな。怪我とかしてねぇか?」
「だ、大丈夫です…」
「んー?知らない土地に来て早速女の子を引っ掛けたのか、幸」
「あんたじゃないんですから、そんなことしませんよ」
そう言いながら幸と呼ばれた青年は、私の腕を掴んで声のする方へ引っ張って行く。
そこには忍者のような人と大人の雰囲気を醸し出す人と冷淡な空気を纏う人がいた。
(何なんだろう、今日という日は……)