第7章 妖討伐(2)
「だろ?」
不意に向けられた少年のような無邪気な笑顔に、不覚にも鼓動が跳ね、顔に熱が集まる。私は悟られないように誤魔化しながら、その後時間をかけてゆっくりとお粥を食べ終えた。
「御馳走様でした」
「おぅ」
「入るぞ」
そう言って返事をしないうちに部屋に入ってきたのは、信長さんと光秀さんだ。
安土城城主が直々に見舞いに訪れたとあって、私は慌てて褥から出て挨拶をしようとするが、信長さんは私を手で制す。
「そのままで良い。無理をするな」
他の武将達にも視線で請うと、皆頷いてくれた。
「では、このまま失礼します…」
「ようやく目覚めたか。お前がいないと、城の中が通夜のようだったぞ。特に秀吉が」
光秀さんが妖艶な笑みを浮かべながら言ってくる。信長さんも全くだと言うように頷いている。
「…御心配を、おかけしました…」
そう言って、深々と頭を下げる。それを見ていた信長さんが、顔をしかめながら手を伸ばしてくる。
思わず私はぎゅっと目を瞑った。しかし痛みは来ず、優しくて温かい手の感触が訪れた。
(え…)
そっと目を開けると、信長さんが頭に巻かれた包帯にそっと手を添えている。
「貴様…勝手に傷を作りおって」
「…すみません」
私は呆然と信長さんを見ることしか出来ない。すると、急に耳鳴りがして視界がチカチカ光ったかと思うと、褥に座っていた私の身体がグラッと揺れた。信長さんが慌ててその身体を支える。
「大丈夫か?」
「すみ、ません…大丈夫です」
そう言うものの、珠紀の顔色は真っ青で、信長に預けた身体を自力で起こすことが出来ずにいた。
不安な空気が流れるが、家康が珠紀の頬に手をやりながら言う。
「三日間、何も食べずに眠っていたので、体力が無いだけです。久しぶりに身体を起こして座っていたから、軽い眩暈を起こしてるんだと思います」
「確かに。更にやつれたな、珠紀は」
そう言いながら自分の胸に珠紀をもたれかけさせた信長さんが、秀吉さんに視線を投じた。
「秀吉」
「はっ」
「ここまで見聞きして、貴様はまだ珠紀を間者だと疑うか?」
「……いえ」
「ならば、此奴を斬ろうなどとは思うなよ」
「信長様がそう仰るのでしたら、俺はそれに従うまでです」
そう言い切った秀吉さんは私に向き直ると、深々と頭を下げた。