第7章 妖討伐(2)
瞼越しにうっすらと光が射す。身体と同様に重い瞼を開けようと力を込めると、すぐ近くで気配がした。
「珠紀様⁉」
「大変ですっ、珠紀様が!」
「早く家康様に!」
数人の女の人が慌てたように声を出して走り去って行く音が聞こえた。
ようやく瞼をしっかり開けて見ると、見たことのある天井が映った。そして視線を投じると、あの小物が私の枕元にいた。
「ここは…安土城…?」
口は動かすが掠れた声しか出ない。それでも小物は頷いて、あやすように優しく頬を撫でる。
《ああ、戦いは終わったよ。お前の印も消えている》
「そうか。良かった…」
《良くないよ》
ホッと息をついていると、べしっと頭を叩かれた。
大して強い力ではない筈なのに、痛みが走って思わず呻く。手を置くと、そこには包帯の感触があった。
(…そっか。あの時、血流したんだった……)
《……お前を見ていて思ったよ。大事なものを護りたいとか、迷惑かけたくないとか、そんな気持ちばっかりだ。自分を大切に出来ない奴は、大嫌いだよ》
その言葉が弓を作ってくれた老人や秀吉さんの顔を思い起こさせる。
「…うん…ごめん」
そこへ幾つかの慌ただしい足音が聞こえたかと思うと、武将達が勢いよく襖を開けて駆け寄ってきた。
「珠紀!」
「珠紀様!」
私は身体を起こそうとするが、身体は鉛のように重くて、節々が痛んで顔をしかめる。
「ちょっと、まだ寝てなきゃダメ」
素早く側に移動した家康さんが私を優しく支えてくれた。そのまま手首に手を当てて脈を測る。
「眩暈とかはする?」
私は小さく首を横に振った。
「頭…痛い…」
秀吉さんが私の頬を両手で掴む。
「まったく無茶しやがってお前は!」
「い、いふぁい…れす」
「ちょっと秀吉さん!今目が覚めたばかりなんですから抑えて下さい!」
「あ。悪い…」
我に返った秀吉さんは手を離してそのまま腰を下ろした。子犬のようにシュンとした表情に肩の力が抜ける。
「まったく。あんたも心配かけたこと、自覚しなよ。あと、俺の手間を増やさないで」
そう言いながらも、未だに握ってくれる手は言葉とは裏腹に優しい。
「珠紀様、本当に心配しました。目が覚めて本当に良かったです」
三成君が微かに目に涙を溜めて言う。