第7章 妖討伐(2)
秀吉と政宗の手によって珠紀が再び安土城に運ばれてから三日が過ぎた。
未だに珠紀は目を覚まさず、身体も衰弱したままだ。
時折、悪い夢を見ているのか、苦しそうに涙を流しながら魘されたかと思うと、そのままパタリと反応が無くなってしまう。それを何度も繰り返していた。
家康は頭の傷を診て薬を塗ったり、包帯を変えたり、魘されて汗の滲む額を拭いたりしながら、時間の許す限り珠紀の看病をしていた。そうしている中で一番辛いのは、珠紀の泣き声を聞いている時だ。
よほど、辛い目に遭ったことがあるのだろう。珠紀の泣き声は、ただ単に親を求めるようなものではなく、聞いているだけで息苦しくなるような、そんな泣き方だった。
家康だけに限らず、珠紀の様子を、代わる代わる武将達が見舞いに来る。特に、一緒に居ながら珠紀に怪我を負わせてしまったという秀吉は気掛かりなようで、警戒心を解かないものの一刻に一度は部屋を訪れていた。
「珠紀、入るぞ」
そんな事を考えていると、当の本人が現れた。
「まだ、起きないか…様子はどうだ、家康」
秀吉が眉を寄せて静かな寝息を立てる珠紀を見ている。
「身体は衰弱してますけど、傷も深くありませんから意識は戻りますよ」
そうは言うものの、家康は珠紀の衰弱の原因が何なのか掴めていなかった。
左腕を見てみるものの、最初に診た時に会った痣は綺麗に消えており、疑問はますます深まるばかりだ。
(あんたに聞きたいこと、山ほどあるんだよ。早く起きなよ、珠紀)
「ごめんな、珠紀」
そう言いながら秀吉は優しく頭を撫でるが、珠紀からの反応はない。
「俺が変に出しゃばったりしなきゃ、こんな怪我しないで済んだのに……」
「……まぁ、気持ちが分からなくはないですけど、珠紀が目を覚ましたらすぐに呼びますから、秀吉さんはその辛気臭い顔、直しといて下さいよ。そんな顔で会いに来られたら迷惑です」
家康の言葉に驚いた顔で秀吉は頭を掻いた。
「…そんなに、酷い顔か?」
「はい」
家康の即答に秀吉は苦笑した。
「参ったな…まさか、お前に諭される日が来るとは」
「……とにかく目が覚めないことには何とも言えません。軍議もありますし、珠紀のことは女中に任せましょう」
「そうだな。珠紀、また後でな」
秀吉はもう一度優しく頭を撫で、家康と共に部屋を出て広間へ向かった。