第7章 妖討伐(2)
安堵したのも束の間、そこへ人の気配を感じて私は木刀に手をかけた。気配のする方に目を向け、やがて月明かりに照らされた人影を見て、私は目を見開いた。
(嘘…何で……?)
「やっと見つけた…」
「意外と長い道のりだったなー」
姿を現したのは、秀吉さんと政宗さんだった。私は唖然として口をパクパクさせることしか出来ない。
(何で…こんなところに二人がいるの……?)
「プッ。見ろよ、秀吉。こいつ固まってるぞ」
「驚かせて悪い。光秀から情報を聞いて――」
どうやら光秀さんが私がここにいることをそれとなく話したらしい。
驚きはやがて怒りへと変わる。私は素早く木刀を腰から抜くと、二人へ切っ先を突き付けた。
「…………何をしに来た」
鋭く冷めた視線が秀吉さんと政宗さんを突き刺す。その気迫に二人は息を飲んだ。しばらく視線の交差が続いたが、私は舌打ちをすると視線を逸らす。
(………付き合ってられない。放っておこう…)
気を取り直して周囲の妖気を探った次の瞬間――ざわざわと、身体の奥で何かが這い上がってくるのが感じた。視線を投じると、少し離れところに大男の妖が突然姿を現した。
すぐさま木刀を構え、隙を伺う。以前に会った時と比べて明らかに妖力が増していて、それが肌を刺してくる。
《ヒヒヒ。わざわざ喰われに来たか》
(……あれから幾らか喰ったようね)
《気が変わった。勝負よりもお前を嬲って喰った方が面白そうだ。ヒヒヒ……となれば――》
嫌な予感がして見ると、大男が素早く動いて秀吉さんに向かって手を伸ばしていた。
「秀吉さん!」
考えるよりも先に私は秀吉さんに駆け寄って、その場に押し倒す。
「珠紀⁉」
政宗さんが慌てた様子で駆け寄ってくる。
「おい、大丈夫か⁉」
鉄の匂いが鼻をつく。身を起こそうとして、左目に液体が入って開けていられなくなった。
液体は私の顎を伝って秀吉さんの着物に落ちて赤い染みを作る。どうやら秀吉さんを庇った際に大男の爪が掠ったのだろう。私は流れる血を気にもとめずに立ち上がって大男を睨んだ。
「お前の相手はこの私だろ。ゆめゆめ間違えるな」
《ほぅ…弱い者を先に始末するのは定石だろう》
「こいつらを喰いたいのであれば、この私を倒してからにしろ」
不敵にそう笑みを浮かべると、私は駆け出した。