第7章 妖討伐(2)
「ああ。意味不明だ!」
そう言って秀吉さんは私の置き手紙を突き出してきた。
「初めて見たぞ、こんな字。暗号か何かか?お前本当にどこの国の者だ!」
そこには自分が書いた『御世話になりました』の文字。
秀吉さんが武士の生まれではないとはいえ、字の読み書きが出来とは考えにくい。
何度か紙と秀吉さんの顔を交互に見比べ、やっと原因に思い至りポンと手を打った。
(私、急いでて現代の文字を書いちゃったんだ……そりゃあこの時代の人は読めないわな。うん)
「御世話になりましたと書いたんです。そちらが読めるような字を書いてる暇がなかったもので」
「読める、字?」
「ともかく、事が済んだら私は誰が止めようとこの安土を出て行きます。
いちいち城に上がるのも面倒だったので置き手紙を残したんです。で、秀吉さんは私に何の用ですか」
「お前が心配だったんだ!」
「心配?」
(織田軍の情報が漏れないかどうかってこと?いや、でもそんな情報話し合う軍議に全然参加してないから知らないし)
「安土は信長様のお陰で治安は良いが、万全なわけじゃない。お前は一人で城からいなくなるし。あっちこっち探したんだぞ」
(…つまり、女子(おなご)の一人歩きを心配した、と)
「……母親以上の心配と気遣い、有難うございます。ですが、自分の身は自分で守れます」
「だ、だけどな…」
渋る秀吉さんを押して私は小屋の中に入った。
「こんにちは」
「おぅ、来たか」
老人は晴れやかに迎えてくれた。
「おい珠紀、話を逸らすな!」
私は秀吉さんをきっぱり無視して老人に頭を下げた。
「無理言ってすみません。早速ですが……」
「おい!」
「今持ってくる。ちょっと待ってなさい」
「お前まで俺を無視するな!」
秀吉さんの存在を二人で綺麗に流し、老人は立ち上がると奥へ向かった。そのまま待っていると、布に包まれた長いものを持ってくる。
「……開けてみても?」
老人が頷き、私にものを手渡してくれる。布を取り払うと、梓で私の身の丈に合うように作られた弓、そして矢筒と矢が現れた。
「これは…!」
弓を手に取り軽く振ってみる。欠けていたパズルのピースがぴったり合うような感覚を覚える。