第7章 妖討伐(2)
「はじめに言った筈ですよ。私は……ここにいてはならない者。事が済んだら立ち去りますので、御気になさらず」
苦笑していると、前に回り込んだ光秀さんが、私の顔の脇に手をついて至近距離で顔を覗き込んだ。逸らそうとしても琥珀色の瞳に見据えられ、動けなくなる。
「よくも俺と信長様しか知らない蜜道を暴いたな」
(あれ、蜜道だったんだ……)
「たまたまですよ。強いて言えば直感ですかね」
「何だと…?」
「別に良いじゃないですか。私、ここ気に入りましたし。秘密基地にでもしようかなぁ」
矛先をずらそうと努めて明るく言うが、肩で大きく息をしてしまい、表情も上手く作れていないのが分かった。
「……顔色が悪いな」
「…ほっといて…下さい」
そう言ったのを最後に、私の意識はそこで途絶えた。
荒く息をしたまま失神した珠紀を見下ろした光秀は、静かにその蒼白な頬に手を伸ばした。
(冷たい…)
秀吉や自分に体術を仕掛け、威勢良く啖呵を切った姿とは正反対の、今にも儚く消えそうな気配に思わず唇を噛む。
(だいぶ…辛そうだな)
おそらくこのまま抱えて連れ戻したところで、珠紀が外に出ることは目に見えている。
ここに来る道中でさえふらついていたのだ。もし呪いの効力が日に日に強くなるものなのだとしたら、下手すると戦いの日はここに来る体力さえ残っていないのかもしれない。それこそ、珠紀の信念を踏みにじることになる。
(御館様には、報告を入れるか…)
光秀は一度珠紀を抱き上げて風下に当たらない所まで運び、自分の羽織を脱ぐとその小さな身体を包み込んだ。
(後で奴をここに送るか…)
安土一の世話焼きの顔を思い浮かべ、光秀は口元が緩むのを感じながらその場を立ち去った。