第7章 妖討伐(2)
その日の夜。私は道具を懐に入れ、木刀を腰に携えてふらつきながらも城を抜け出した。
自然と息が上がり、印に精気を吸い取られているのが分かる。
(黙って出たら、正直後が怖いというか面倒だな……特に秀吉さんの長時間説教が待ってそう……)
その様子を想像して思わず苦笑いが出る。
私は城の裏手にある林に入った。しばらく進んで行くと、草木の壁に辿り着いた。
隙間をくぐり、獣道を進んで行く。その道中でわざと足を引きずるように歩き、痕跡を残した。
「城の人には心配かけちゃうな。でも、私がいたら迷惑が……うっ」
鋭い痛みが左腕に走り、近くの木に背中を預けて荒く息を吐いた。汗が顎を伝って地面に落ちる。
《……不思議な奴だ。お前は人も妖も好きなんだね》
声がする方を見ると、昼間に影のことを教えてくれた小物が傍に立っていた。
「小さい頃は人も妖もそんなに好きじゃなかったの。でも、優しい人達や妖怪に出会って、優しさを知って、宿命から逃げたくないって思った。私も、誰かの為に優しくなりたい。そう思ったの」
《力があるくせに甘っちょろいことを》
「分かってる」
私は何とか息を整え、立ち上がった。
(ここで戦うのはちょっと不利……広い場所に行って体力を温存しないと)
小物は歩き出した私の後ろを何も言わずについてくる。私は小物を無視して進んだ。
歩き続けて四半刻経った頃、視界が一気に開けた。冷たい夜風が吹き抜ける広い草原に、私は密かに安堵する。
(ここなら戦う場に相応しい)
近くの木に怠い身を預けて座り込む。息を吐いていると、近くから人の気配がした。
「……やっぱりついて来たんですか」
林から姿を見せたのは光秀さんだった。月明かりが、その白銀の髪を幻想的に照らしている。
「こんなところにいたのか。何をしている」
「こう見えても、一応戦闘前ですので。部外者との繋がりは絶っておきます。集中力にも繋がるので」
「安土城には戻らないつもりか」