第6章 妖討伐(1)
「心配しなくても、密告書なんて書いたりしませんよ。信用がないでしょうから、見張りも兼ねて部屋にいて下さって構いません。
後からコソコソ覗かれる方がよっぽど嫌です」
そこで言葉を区切り、笑みを消して私は女中の耳元に口を寄せた。
「それが貴女の仕事ですもんね、光秀さんの隠密さん」
「⁉」
女中は目を見開いて私を見る。私はクスリと笑みを零した。
「図星、ですか?」
「…………」
「別に責めたりしませんよ。正体不明の女がいるんですから、織田軍として当然の処置です。
ただ、事が済むまで私のことはあくまで傍観・主への報告のみにして下さいね。光秀さんからも、そう言われているのではありませんか?」
女中はそれには答えず、一礼するとその場を立ち去った。
おそらく光秀に報告と墨などを取りに行ったのだろう。
部屋に着いた私は、現代から持って来た物を風呂敷に包み、結界を張って常人(ただびと)には視えないようにした。文机を用意し、座禅を組んで呼吸を整える。
(もう、ここには留まらない方が良い。今日中に出てどこか草原で過ごして、奴を討とう)
その後、墨と紙を運んで来たのは別の女中だった。
私はそれらを受け取ると、霊符や戦いに必要な術を組み込んだ巻物を作る為に、墨をすり始めた。