第6章 妖討伐(1)
いつの間にか秀吉さんの大きな背中が、私の目の前にある。私は呆然とその大きい背中を見つめた。
(秀吉さんって……優しくて、面倒見が良くて…良い人だな……)
何気ない秀吉さんの優しさに胸が温かくなる。
(もし……優しいお兄ちゃんがいたら…こんな感じなのかな……)
家族とは言っても、掟や身分が厳しく、兄弟姉妹がいなかった私は正直に羨ましい気持ちになる。
(良いなぁ……)
「ほら行くぞ、珠紀」
秀吉さんはそう言って、さりげなく私の手を引いて歩き出した。鼓動が高鳴るのを感じながら私も足を運ぶ。
やがて軽く一通り城下を回った私達は、茶屋で休憩していた。未だに少し遠い所に人影は佇んでいる。
お茶を飲もうと手を伸ばした時、視界に赤いものを見て私は、唖然となった。五日印が、手にまで広がりつつある。
(あの影とこの印は、何か関係が?……あまり、躊躇してる間はないかも…)
「どうした、珠紀。さっきから浮かない顔だな」
政宗さんが私の顔を覗き込んでくる。
「……あまり時間はないかもしれない。そう思っただけですよ」
私は人影から視線を外さないままお茶を口に含む。その時、隣から微かな妖気と視線を感じて何気なく目をやると、秀吉さんの頭の上に手の平サイズの着物を着た老婆の姿をした小物の妖怪と目が合う。
《おや。目が合った》
「っっ⁉」
驚いた拍子にお茶が気管支に入り、私は思いっ切りむせた。
「ゲホッ!ゲホッ!ゴホッ!」
「おいおい。大丈夫か?」
政宗さんが優しく背中をさすってくれる。小物はクスクス笑いながら、私の肩に乗ってきた。
《見慣れぬ小娘だ。お前は妖怪が視えるのか。ほぅほぅこれは面白い》
私は眉を寄せて肩に目をやった。
「あなたは、あの影の仲間?」
《私は久々に此処に遊びに来ただけだよ。昔からちょくちょく此処に遊びに来たものだ》
続きを聞こうとした私は、秀吉さんと政宗さんから怪訝そうに見られていることに気付き、慌てて立ち上がった。
「すいません、ちょっと野暮用を済ませてきます」
そう言い残し、私は茶屋の裏の林に駆け込んだ。木々の間に身を隠し、小物に尋ねた。