第6章 妖討伐(1)
「初めまして」
「可愛らしい娘さんじゃな。それで、ワシに何の用じゃ?」
「私に弓を作っていただきのです」
「なに?」
私の言葉に、老人の表情が真剣味を帯びてくる。
「それは何故に?」
「それは申し上げられません」
「なら作ることは出来んな」
きっぱりと言う老人は、先程秀吉さんと話していた時と異なって、厳しい表情と鋭い眼光を私に向けてくる。
「弓は人の命を奪う武器じゃ。それ相応の理由がなければ、見ず知らずの者に作る義理はない」
「理由はあります。ですがその前に、あなたが織田軍に弓を作るワケを御聞かせ願いますか」
私と老人との間でしばらく視線が交差する。やがて老人は己の左足に手を置いて口を開いた。
「秀吉殿、政宗殿。恐れ入りますが、しばらく、この者と二人きりにしていただきたい」
「……分かった」
秀吉さんは眉をひそめながらも、渋る政宗さんの襟首を掴んで外へ出て行った。
私は、台所を拝借してお茶を淹れた。湯呑みを渡した後、腰を下ろして老人の言葉を待つ。
「すまんな」
「いえ」
「……ワシは昔、己の為に日々剣の腕を磨いてきた。鍛錬は楽しかったし、辛いと思ったこともなかった。力があれば何でも出来る。そう信じて疑わなかった……
……じゃが、初陣した後、ワシは戦が嫌いになった」
「……悲惨な光景を、見たからですか?」
「それもある」
話を続けるうちに表情も声音も低くなる老人に、私は眉を寄せた。
「……戦場で、左足を撃たれてな。剣道をする者にとって、動きの軸となる左足を撃たれては織田軍の中で生きていくことは出来ない。
その時、ワシには妻も息子もいた。幸せな日々じゃった。その日々を守る為に、戦に関連のない道を探そうとした。じゃが……甘かったのだ……」
「…………」
私は黙って老人の話に耳を傾ける。老人の握った拳が震え出した。
「ある日、運動も兼ねて外に出ていた先から帰ってみれば、この家の中は血の海だったんじゃ」
「っ⁉」