第6章 妖討伐(1)
安土城を出発した私達は城下へと足を踏み入れた。
大通りにはもちろん現代ほどではないが人と物が賑わっていて、明るい雰囲気に満ちている。
(そういえば、織田信長は城下町の発展にも力を入れたんだっけ……確か『楽市楽座』だっけ?)
「すごいですね……」
「だろ?信長様が色々な規制を取り払っているからな」
秀吉さんが実に嬉しそうに話してくれる。
(ご主人が好きで堪らない犬みたい……)
そう想像すると、元気よく振る尻尾まで見えそうな気がして、緩みかけた頬を引き締めた。
(秀吉さんって本当に信長さん一筋なんだな…)
「で、何処に行きたいんだ?」
政宗さんに言われて、私は当初の目的を思い出した。
「そうですね……とりあえず弓を作る所です」
「へぇ。お前、弓が扱えんのか」
政宗さんが意外そうな顔をする。
「不要な詮索はやめて下さい」
淡々と答えると、秀吉さんを振り返った。
「案内をお願い出来ますか?」
「あぁ。こっちだ」
そう言って秀吉さんは、城下から少し外れた小屋へ連れて行ってくれた。
小屋の中は、弓の材料の梓なり麻なり接着剤の匂いが充満している。
戦の武器調達時に御世話になっているらしく、老人と親しげに会話する秀吉さんを見て、私は政宗さんに言った。
「秀吉さんは、この安土には欠かせない人ですね」
「何でそう思うんだ?」
「城下で民が秀吉さんに向ける眼差しはとても温かいものでした。
天性の人誑しがそうさせているのかもしれませんが、日々の賜物なのでしょうね。きっと秀吉さんがいなかったら、何かあった時に、安土が一丸となれない。そう思います」
思ったままを言うと、突然、政宗さんが私の頭をワシャワシャと撫でてきた。
驚いて政宗さんを見ると、優しい眼差しを向けられていた。
「そうか。確かにそうだな。お前、良いこと言うじゃねーか」
頭を撫でられたことのない私は呆然と政宗さんを見つめ返す。擽ったいような嬉しいような思いが湧き上がり、そのまま動かずにいた。
「何してるんだ?」
秀吉さんが不思議そうに私達を見ている。
「な、何でもないですっ」
私は慌てて政宗さんの側から逃げ出し、老人に駆け寄った。