第6章 妖討伐(1)
「政宗、その小娘に噛みつかれないように気を付けろよ」
ニヤリと笑った光秀さんがそう口を開く。
「は?」
政宗さんをはじめ、武将達は目が点になる。
(まさか……!)
嫌な予感がして、私は光秀さんの口を塞ごうと動こうとするが――
「俺は先程その小娘に投げ飛ばされたのでな」
「……はぁっ⁉」
愕然とした武将達の視線が私に集まる。穴があったら、入りたい……
「投げ飛ばした⁉」
「光秀さん、冗談やめてくださいよ」
「俺は事実を言っただけだ」
私は揶揄われることを防ぐ為に素知らぬ振りを決め、口を閉ざした。その時――
グゥゥウ……
「…っっ⁉」
不覚にも私の腹の虫が鳴ってしまった。
一気に顔が熱くなるのが分かる。
(よりによって何でこのタイミングなの……⁉)
次の瞬間、広間は笑いに包まれた。
「昨日の夜から何も食べてないんだろ?ほら、食えよ」
肩を震わせながら、政宗さんが家康さんとの間の座に誘導してくれる。
「やはり童だな」
光秀さんの揶揄う声が聞こえたが、敢えて無視した。
席に着くと、政宗さんが煮物を口の前まで持ってきた。
「ほら。食ってみろよ」
「じ、自分で食べられますから…い、いただきます」
恐る恐る煮物を口に入れると、中でホロリと溶けて出汁の味や調味料のハーモニーが広がった。
「美味しい…!」
思わず目を丸くして呟く。そんな私を見て、政宗さんは嬉しそうに頷いている。
「だろ?お前があいつらと違ってちゃんとした舌を持ってる奴で安心したぜ」
秀吉さんを見てみると、自分の食事をしながら隣で本を読んでいる三成君の口元に食事を運んであげている。
(母親並みの世話焼き……いや、餌付け?)
「あいつは集中すると寝食を忘れて本を読み続けるんだ。
俺が言わなかったら丸一日……いや、下手したら数日はそのまんまだな」
政宗さんが私の視線に気付いて、そう教えてくれる。
(すごい集中力なんだな……でも、医科学的というか健康的には良くないよね)
「もしかして、光秀さんや三成君に料理を作ってあげたりしてるんですか?」
「よく分かったな、お前」
「勘です」
「へぇ。なかなか良い勘してるな」
「野生的な政宗さんには言われたくないと思います」
急に家康さんが口を挟んできた。