第2章 出会い
(何でこの人、甲冑なんか着てるの?ドラマの撮影か何かかな)
他にも問いたい事はたくさんあるのだが、それを押し込め、黙って男性を見返した。
「どうやら俺は貴様に命を救われたらしいな。
寺の坊主と密通している遊女か何かだろうが、一応礼を言っておいてやる」
男性は嘲笑を浮かべた。
(随分上から目線だな……私を遊女って…どう見たらそうなるのやら。
口調も変だし、役者魂というか情熱がすごいのかな)
「ど、どういたしまして…」
「護衛を全員手にかけ近付くとはな…」
男性は真剣な表情になり、視線を燃えている建物に移した。私もつられて建物に目を写し、瞠目する。
「え……」
目に飛び込んで来たのは“本能寺”という文字。
(嘘……)
本能寺で鎧を着た男性という組み合わせが頭の中を真っ白にする。それが示すのは一つの答え。だが、私はそれを認めたくなかった。
「呆けた顔をしているな。俺の名は知っているだろう」
「いや、知りませんけど……」
「知らずに俺を助けたのか?」
私の答えに、男性は軽く目を見張った。
「目の前で危ない目に遭ってる人を助けるのに理由が必要ですか?」
「褒美目当てかと思ったが…知らぬのなら教えてやる」
「いえ、無理に教えていただかなくて結構です…」
すると、男性は意外そうに目を見張り小さく笑った。
「妙な女だな、貴様は」
(いや、妙なのはそっちでしょ)
心の中で突っ込むが、男性は私の心情など何処吹く風で私の正面で腕を組むと、ニヤリと口角を上げて言った。
「俺は安土城主、尾張の大名、織田信長。これから天下統一を果たす男だ」
(織田……信長…って…)
その名前を聞いた瞬間、背筋が凍った。
唖然として、目の前の男性の頭から下までじっと見てしまう。
(コスプレ……とかでも嘘をついてもいなさそう…
織田信長って、あの織田信長だよね?元うつけで新しいもの好きな戦国武将…
…ちょっと待って、嫌な予感がする。もし本当なら…ここは……)
「何一人で百面相している。この俺が名乗ったのだ。貴様も何者か名乗れ」
「……宇賀谷、珠紀です」
信長さんの威圧感に推され、無意識に名乗り返す。
「珠紀、か。良い名だな。それにしても貴様、名字を名乗るのだな」
「は?」
思わず間抜けな声を出してしまう。その時、蹄の音が聞こえてきた。