第2章 出会い
近くで何かが焼けている音と臭いがする。そう思いながら私は意識を浮上させた。
(何……?)
起き上がり、気持ちを切り替えるために周囲を見てみると―――
「え……何でっ⁉」
何故か私は火事現場の渦中にいた。
私は京都の外にいた筈。なのに何故自分が造建物の中にいるのかが分からない。
状況は把握しても理解は出来ず、混乱してしまう。
(いやいや。とにかく、ここを出る事が先決―――ん?)
出口を探そうと周囲を見渡すと、奥の柱にもたれかかって意識を失っているらしき男性が座っていることに気付いた。
「ちょっ……」
思わず座っている男性に駆け寄り、首に手を当てて脈を素早く確認する。
(良かった、生きてるっ。でも何でこの人、こんな所で寝てるのよ。死ぬ気?)
「ちょっと!起きて下さい!」
そう言いながら頬を叩いて起こそうとする。その時、視界の端で何かが光った。
(え……)
考えるよりも先に身体が勝手に動いていた。
背負っていた袱紗を手にし、迫ってきた何かを防いだ。
(えっ、嘘⁉ 刀⁉)
私は混乱しながらも炎に照らされた刀を弾いて、それを持つ人物を定めようとした。だが、その人影は踵を返して煙の中へ姿を消してしまう。
(何だったの、一体……?)
そう思ったのも束の間、近くの柱が崩れてきた。
「わっ!」
私は男性を押し倒して崩れて来た柱から庇う。
「…………ぅっ」
床にぶつかった衝撃からか、男性が声を上げた。
(あ、気が付いた?)
男性は何度か瞬きを繰り返し、私を視界に入れた。
「貴様は―――」
「話はここを出てから!ほら、行きますよ!」
私は動かない男性の手を掴んで引っ張り起こし、そのまま駆け出した。
急がなければ煙に巻かれ、死に至ってしまう。
授業や避難訓練で言われた煙の侮れない脅威を思い出しながら、勘で出口へ向かう。
煙を吸い込みながら必死に足を動かし、私達は何とか建物から脱出した。
「はぁ……はぁ……大丈夫…ですか?何処か…怪我したり…してませんか?」
荒く息を整える私とは反対に、男性は息を乱すことなく焼け崩れていく建物を背中に私を無表情で見下ろしている。
「……何者だ、貴様は」
開口一番がそれか。
思わずそう突っ込みたくなる。だが、炎に照らされて浮かび出された男性の格好に私は眉をひそめた。