第6章 妖討伐(1)
「死に至る呪い、ということか」
「力の弱い者や半ばで喰われることがなければ、死にませんよ。
とりあえず五日間凌いで、これを付けた親玉を討たないとこっちの身も危ういのは確かですけど。今日はそれに向けて動くつもりです」
私は布団をどかして立ち上がった。
「着替えたいので、先に行っててもらえませんか」
「やましいことがないのなら、別に問題がないと思うが?」
面白がるように光秀さんは言い、その場から動こうとしない。
「……女性の着替えを見たいとか言うんですか?戦国武将って変態なんですね」
「さぁな」
(あのね……)
「と・に・か・く。私の心が傷付くので、せめて廊下にいて下さい」
「安心しろ。童のようなお前を抱く趣味はない」
会話の中で募る羞恥と、光秀さんに対するイライラによる暴走と戦っていた私だが、最後の言葉を聞いて、頭のどこかが切れる音がした。
「だーかーらぁぁぁぁ…………
出てけと言っておろうが!この、変態無礼者ーーーーっ‼」
城全体に響き渡るかと思われるほどの音量で怒鳴った私は、襦袢を着たまま唖然としている光秀さんの胸倉を掴み、大外刈りを食らわせ、廊下を飛び越して中庭へと投げ飛ばした。
左腕にしっかりと包帯を巻き、袴に着替えて広間に向かう私は、光秀さんの後ろを歩きながら、未だに怒り心頭の状態だった。
当の投げられた光秀さんはずっとにやけた表情を崩さない。
「そうカリカリするな」
「誰のせいだ。誰の」
「それは失礼」
そう言う光秀さんの声音から反省の色は皆無だ。
私は光秀さんに対する警戒を倍以上にした。
(光秀さんの背中ばかり見てたら調子狂いそう)
気分を変えようと視線をあらぬ方向に転じた私は、視えた光景に足を止めた。
(え…………)
手の平に乗るほどの大きさや膝丈までしかない数々の雑鬼が、視界のあらゆる所にいたのだ。
そのうち、何対もの視線が私に集まり始める。敵意ではなく、興味の対象として見られているようだ。中には気付かれないようにそっと様子を伺っているモノもいる。
(やっぱり妖モノ(こいつら)は妖モノ(こいつら)だな…安土城といえど、城内の警備は強めていても、小物が結構多いな…)
時は隔たっていても、現代と変わらない光景に思わず頬が緩む。
「秀吉の小言を聞きたくなければ早く来い」
「あ……」