第6章 妖討伐(1)
「………ん」
明るい日差しを感じて目を開けて見ると、少し前に見たのと同じ天井が映る。そして暖かい布団の感覚……
(あれ……私…何で……)
自分の状況を確認しようと肘をつけば、私を挟むようにして秀吉さんと光秀さんが壁にもたれて座りこちらを見ていた。
「目が覚めたか」
「え……?」
慌てて身体を起こすと、濡れた手拭いが布団の上に落ちる。
「中庭に倒れてたから驚いたぞ。魘されてたし、何があったんだ?」
そう言われて途切れていた記憶が戻ってくる。
「えっと……すいません、ちょっと記憶が曖昧で…」
私は軽く頭を掻きながら、そう言って誤魔化した。
術の存在も知らない普通の人間に何をしていたかを正直に言えば、他国に密告している間者だと思われても不思議ではない。
「そうか。とりあえず俺は信長様に報告してくる。朝餉に遅れるなよ」
秀吉さんは私の頭を優しく撫でると部屋を出ていった。
昨日との雲泥の差の態度に、私は撫でられた頭に触れ、唖然となる。そんな私を見て、光秀さんがクククと笑った。
「あれが秀吉の地だ」
(そうなんだ…)
昨日との態度の差から織田信長という武将に対するただならぬ忠誠心を感じる。どこまでも真っ直ぐな心根に思わずクスリと笑みが零れた。
(そういえば私、カッとなって頭突きなんかしちゃったんだった……後で謝らないと)
「お前に聞きたいことがある」
急に真剣な顔になった光秀さんが、私を見た。
「…はい」
「お前が倒れていた中庭には水が散っていた。それも不自然にな」
どうやら水鏡は見られなかったらしい。
しかしホッとしたのも束の間――笑みを浮かべながらも心の奥まで見透かすような光秀さんの切れ長で琥珀色の瞳に迫られて、背筋を冷や汗が伝う。
「女中から人払いをするように頼んでまで、何をしていた」
「…………」
私はしばし躊躇ったものの、口を開く。
「……助言をもらっていました」
「ほぅ。密告ではなく助言か」
私は袖を捲って簡潔に五日印のことを話した。
話が終わると、光秀さんの表情は微かに硬いものになっていた。