第4章 安土城(1)
「何とか言え!」
「………あーーーもうっ!」
私はカッと目を見開いて、目の前の刀を掴んで立ち上がると、驚いて動きを止めた秀吉さんを引き寄せ、その顔に思いっきり頭突きを食らわせた。
「くどいわ!」
「⁉」
武将達は目を見開いて固まった。あの信長様でさえ、固まって私を見ている。
当の秀吉さんはぶつけられた鼻と眉間の間を片手で抑え、声を殺して悶絶している。
私はその胸倉を掴んでその瞳を覗き込んだ。
「豊臣秀吉、其方のその耳は飾りか?」
放たれた低い声と、先程までと異なる口調に全員唖然とする。
「な、何…⁉」
「主君以外の言葉は、その耳に届かぬのかと聞いている。
正体不明の私を疑うのも分かるが、もう少し己で考えるべきではないのか?感情に流されれば、真意を見失うぞ。
先程から同じことを聞いて言わされている此方の身にもなれ」
「……っ」
秀吉さんは痛みに耐えながら、私を睨み付けている。
「先程から言っているように、私は事実しか述べていない。ここで嘘偽り述べたところで、私には利点がないのだからな」
私は小さく息を吐くと秀吉さんから手を離し、光秀さんに視線を向けた。
「では、信長殿の左腕である明智光秀殿に聞こう。私の言葉、眼の動きに嘘偽りがあると、貴殿は思われたか?諜報をしている貴殿に伺いたい」
光秀さんは、にやけた表情を潜め、私と視線を交差させる。
「光秀」
信長様の催促に、光秀さんは一度目を閉じて口を開いた。
「事実でしょう」
「当たり前だ」
「ま、見張りでも付けて、途中で尻尾が出れば斬れば良いだけの話です」
「ククク…益々気に入ったぞ。ここで出会ったのも何かの縁だろう」
信長が口角を上げて楽しそうに笑っている。その笑みに嫌な予感がした。
(あれ、ちょっと待って……
そういえばこの人、本能寺でも私を気に入ったとか何とか言ってなかった?
いやいや、冗談じゃない。こんな見るからに暴君が具現化したような男に気に入られたとなったら、絶対ロクでもないことがあるに決まってる!)
「此奴のお陰で俺は死なずに済んだ。今後、貴様はこの城に住み、俺に仕えろ。表向きは織田家ゆかりの姫として扱ってやる」
(予感的中!やっぱりロクでもないことだった!)