第4章 安土城(1)
「何故あの場にいたかですが、正直言って私が知りたいところで、理由は私にも分かりません。
ただ一つ言えるのは、私はここにいてはならない存在だということです」
「回りくどい言い方をするな。貴様は何処の国の者だ?此度の件について知っていることを全て話せ」
「知っていることと言われても、私は気付いたら燃える本能寺の中にいて、襲われそうになっていた貴方を咄嗟に助けた。ただそれだけです」
「そんな話を信じろと?」
「信じる信じないはそちらの自由ですが、真実は一つです」
武将達のある者は眉間に皺を寄せ、ある者は不思議そうな表情を浮かべ、ある者は面白そうに黙って私を見据えている。
「では逆に聞きますが、貴方はあの場から私が現れずとも脱出が出来ましたか?時間的には間一髪だったと思いますが」
「……確かに、御二人が出て来た直後に本能寺は落ちました。僅かでも遅れていれば…」
三成さんが顎に手を当て、真剣な表情で述べている。
「…では、貴様が着ていた奇怪な着物は何だ?持ち物も見たことないものばかりだ」
「それが私の普段着としか言いようがないです。
持ち物は、私が此処にいてはならない証拠です。他にもないことはないですが、差し控えます」
「何故だ」
「ではもしの話ですけど、未来に何が起こるのを知っている人間がいたとしたら、信長様はどうしますか?」
「…………」
「私なら、奪って利用するか、その場で消すでしょうね。少なくとも既に動きは起きています。だからこそ、私は身を引こうとしたんです」
秀吉さんが黙って立ち上がり、ズカズカと私の近くまで来たかと思うと、私の喉に鋭い刀が突き付けられた。
生まれて初めて命の危険にさらされ、微かに身体は震えるが、負けじと秀吉を睨み返した。
「嘘も大概にしろ。後ろ暗いことがないのなら、お前が何者なのか、はっきり言え。今この場でお前を斬ることだって容易いんだぞ?」
「……素晴らしく忠臣な側近ですね。でも、良いんですか?一応、貴方方の君主を助けた私に刀なんか向けて」
「だったら早く素性を言え。何が目的で信長様に近付いた?褒美か?それとも、何か良からぬことでも企んでいるのか?」
(あの状況でそんな能天気なことをやる暇なんてあるわけないでしょうが)
秀吉と睨み合いを続ける中、私は繰り返される返答にだんだん腹が立ってきた。