第4章 安土城(1)
その後、光秀さんはある襖の前で足を止め、声をかける。
「信長様」
「入れ」
「はっ」
そう言うと、光秀さんは後ろを振り向く事無く開けられた部屋に入っていく。
後に続いて入るなり目を見張った。
一面金色に輝く絢爛豪華な広い部屋が広がり、さっきまでの薄暗い廊下からは想像出来ない煌びやかさに満ちている。
部屋の奥の左右には出会った有名武将達が並び居座り、その先の最奥の一段高くなってる部分に、織田信長が……
光秀さんは中央まで進み、向きを変え信長さんに頭を下げた。そのまま奥に進み私を置いて、信長さんの近くに腰を下ろした。
(わぁ…歴史上の偉人が揃ってるよ……)
導かれるまま奥へと進む途中、見えたもの。手前の間には能舞台で見る様な松が描かれていて、次に竹、そして奥には権力と力を象徴するかの様に龍と虎の絵。
ただならぬ威圧感が収まりきれずに漏れ出ている人が、更に上乗せする様な場に居ると、蛇に睨まれた蛙になった気分になり、その場に居る全員の視線を浴びて、居心地の悪さを感じた。
「遅い」
開口一番に信長さんが言う。
「すみませんね。でも、それは其方の都合でしょ。それに、女ってのは準備や支度に時間が掛かるものなんです」
私は信長さんを睨み返した。
「貴様、信長様に向かって…!」
すかさず秀吉さんがタレ目を吊り上げて言ってくるが、私はフンとそっぽを向いた。顔を背けていてもピリピリと何かが肌を刺すのが分かる。
(わぁ…敵意っていうか殺気が剥き出しだ。やっぱり本物の気ってのは違うな……)
「改めて紹介する。此奴が本能寺が燃えた夜に俺の命を救った者だ。だが、俺も此奴の素性は知らん。貴様、何故あの場にいたのか答えろ」
真剣味を帯びた信長さんの声に、自然と私の表情も引き締まった。
さすが、一代でここまで勢力を上げてきた男・織田信長。それだけの実力を付けてきただけの威厳と風格を持ち合わせている。素人で歯向かう気など持てる者は居ないだろう。
(……タイムスリップのことは言わない方が良い。ここが本当の歴史であろうとなかろうと)
「…………そうですね。話しても良いんですけど、貴方方は私の話を信じて下さるんですか?」
「それは貴様次第だ」
(そりゃそうだよね。ま、言ったところで、特に秀吉さんは最後まで私のことを間者か何かだと疑い続けると思うけど)