第1章 序章
私は大学の夏休みを利用して故郷、京都へとやって来た。
私の実家は、もうすぐある神事が行われる。
それに向けて体力向上の修行と気分転換も兼ねて、私は袱紗に木刀を入れて、本能寺跡地へと足を運んだ。
最近テレビの特集やら授業やらで戦国武将達の名前を耳にしたので、代表の本能寺から見て回ろうかと思ったからだ。しかし―――。
(石碑しかないんだ…意外……)
本能寺跡としてぽつんと建っている石碑を見ながら意外に思っていると、視界に白い何かが映った。
視線だけ向けると、白衣姿の眼鏡を掛けた男性が少し離れたところに立って腕時計を見ている。
(何で白衣なんか着てるんだろ?学者、なのかな?)
「……ん?」
手元が急に暗くなり空を見上げると、ついさっきまで晴天だった空が雨雲に覆われていた。
(何で?天気予報は晴れだって言ってたのに……)
不思議に思いながら鞄の中に入れておいた折り畳み傘をさす。
雨は瞬く間にバケツをひっくり返した勢いで降って来た。
(これは…ただの自然現象じゃない……)
何だか嫌な予感がした。抱える不安が何なのか分からないまま、踵を返したその時―――。
「…っ。君、危ない!」
(え?)
背後から男性の声が聞こえたと思った途端、凄まじい音と光が目の前に広がる。
私は起きた状況を理解する前に、そのまま意識を失ってしまった。