第4章 安土城(1)
先に部屋に着いた家康はすぐさま褥を敷き、政宗がその上に優しく珠紀を横たえさせた。
珠紀はぐったりしていて、未だに青白い顔をしている。
「まずは身体を診ます…」
家康は珠紀の服に手をかけようとするが、初めて見る衣服にすぐ止まってしまう。
「こうすれば早い」
政宗は短刀を取り出すと、その肌に傷を付けぬよう洋服を切り裂いた。
シャツの下から出て来たキャミソールを切り裂き、真っ白な肌が晒される。
「……傷はなさそうですね」
「あぁ」
「何でこうなったんです?」
手を止めずに二人は、そんな会話をする。
「実は……俺にも分からねぇんだ」
「は?」
政宗の答えに、家康は思わず顔を上げて聞き返した。
「あんた、その場にいたんでしょ?」
「いきなり暴れるのをやめたと思ったら、何か気配がしてな。その後、こいつは俺の刀を奪って何かと戦ってた」
「何かって何ですか」
「俺が聞きてぇよ。何もいない空間に向かってこいつは刀を振るって話してた」
「……とにかく、色々と聞かなくちゃいけないみたいですね」
その時、家康は珠紀の左腕に奇妙な痣があるのを見つけた。
(何、これ……)
服を捲って見てみる。薔薇のようで不気味な文様をしている痣は熱を持ち、脈打っている。
刀傷でもなれけば、毒によるものでもなさそうだ。未知の痣に家康は眉を寄せ、手拭いを水に浸して痣の上に巻いた。
政宗は襦袢を引っ張り出して珠紀に着せ、掛布団を掛けてやる。
部屋には苦しそうな珠紀の寝息だけが響いた。
女中に珠紀を託し、家康と政宗は廊下に出る。
「信長様にはどこまで話すんだ?」
「どこまでと言われても……分からないことが多過ぎます。とりあえず、見たまんまを話すしかないでしょ」
「だな…」
二人はそのまま天主へと歩みを進めていった。