第3章 森にて
ざわざわと、身体の奥で何かが這い上がってくるのが感じる。
視線を感じる方に目を向けると、少し離れながらも私達と並行して進むように影が走っている。その影が私を見てニヤリと嗤った気配がした。
「……っっ」
突然心臓が叩かれたように跳ね上がるのを自覚した。
息が上がり、心臓が早鐘を打っているのに、血の気が引いて、わけもなく全身が震え出す。
「おい、どうした?」
秀吉さんも怪訝そうに私を見る。
「何かいるのか?」
そう言いながら私の視線の先を追うとするが、首を捻っている。
《ヒヒヒ。美味そうな匂いだ。またとない獲物だな》
(妖…)
私は息を呑んだ。
震えを止めることは出来ないものの、頭の中がどんどん冷静になっていく。
小さい頃から霊力が強く、私は常に妖怪や妖と言われる異形のものを視ることが出来た。
その影響で、力を得ようとする多様な妖達に絡まれる度に、そういった言葉を聞いたことを思い出す。
その時、私は妖の手の中に何かいることに気付いた。
目を凝らして見れば、まだ幼い獣のようだ。血を流し、ピクリとも動かない。
《お前を喰うことにしよう。こんな奴よりもお前の方が良さそうだな》
次の瞬間、妖がぐわっと大きく口を開いて襲いかかってきた。
「っ!」
(喰われる――!)
声を上げることも身動ぐことも出来ないまま、私は呆然と迫る牙を見つめた。
刹那、金属音と妖の苦痛に悶える声が届く。
「え………?」
見ると、政宗さんが私を抱えながら馬と止めて、刀を手にしている。
「どうした、政宗?」
秀吉さんも馬を止め、刀に手をやりながら問うた。
「……何か、いるのか?手応えはあったんだが」
政宗さんは周囲に目を光らせている。
《お、おのれぇ…人間如きの分際で…!》
妖が傷口を押さえながら政宗さんを睨んでいる。
どうやら、迫ってきた妖の気配に直感で気付いた政宗さんが刀を振るい、偶然にも救われたらしい。
その時、妖の手の中にいる獣が薄っすらと目を開いた。
(っ、あの子、生きてる…!)
そう思うや否や、私は政宗さんから刀を奪い、馬から飛び降りた。
「おい!」
私は地面に足が着くと同時に、妖に向かって行き、獣を捕らえている腕を斬り付けた。
《ぐわぁあっ!》