第1章 1
ドアに手をかけたまま、眉を上げ面白そうに声をかける俺に、いっそう頬を膨らませて自分の横のシーツをポンポン、と叩く。こちらに来い、と言っているらしい。
素直にベッドに近づく。サイドテーブルにグラスを置いてベッドに膝をかけ、手をついて彼女のそばまでいき、目線を合わせる。そのまま、まだ少し重たげな瞼に軽く口付けた。
おはよう、なまえ。
ちゅ、という音に、無意識に目を細め、ニッコリと口角を上げかけたなまえは、慌てて口を尖らせ
「…… 起こしてくださいって言ったじゃないですか… 」
と、少し恨めしそうにそっぽを向く。
「悪いな、何度か起こしたんだが。あんまり気持ちよさそうに、あともうちょっと…なんて言われたものでな」
「そ、そんなこと言いません!一緒にジョギング行くって約束したんだから」
「いーや。はっきり、この口が言ってた」
なまえの唇を人差し指と親指で軽くつまむ。
「そんな風に言われちゃ起こせないだろ?」
「前もそう言っておこしてくれなかった…」
「ふっ そうだった」
つままれたままフガフガと文句を言うのが可愛くて、くくっと笑いがこみ上げてくる。
「俺だってお前に効果的なトレーニングを教えてやりたいんだが、最近のお前にはそれよりも睡眠の方が大事に見える。仕事で会うとひどい顔をしていることが多いからな」
それを聞いて、拗ねた表情を引っ込め、少し悲しげな顔をした。
「でも、せっかくのお休みだし…」
「時間はたっぷりある。この先ずっと一緒だと、昨日言ったはずだが?」
片手で頭を抱きよせ、額にキスを落とすと、昨夜のことを思い出したのか、すっと目を逸らし頬を染めて俺の背中に手を回してきた。