第1章 1
「ほら、コレ、飲んで機嫌直せ」
「わ!綺麗な色…」
ひとしきりグラスを眺めて、もしかして、また作ってくれたんですか?と目を輝かせた。直後に少し顔がこわばる。おずおずと、
「あの、ちなみに、これは…えーと、、中身には、えーと…」
目が泳いでいる。こいつのこの、分かり易すぎる表情の変化には本当に驚くばかりだ。一つ一つが愛しく、可愛らしい。この先一体あといくつの表情を見せてくれるのだろう。
「心配するな、前よりも美味いはずだ。ちゃんと研究したからな。キウイとマンゴー、りんごにバナナ …」
好物をいくつも挙げられて、だんだんと眉が下がっていく。グラスを見つめ、嬉しそうに、いただきます!とひとくち含んだ。
「ん、美味しい!めちゃくちゃ美味しいです!ありがとうございます、新堂さん」
「違う、昨日言っただろう」
「き、き、きよ、し、さん」
「いい子だ」
呼び慣れない名前を口にしながら、なまえは幸せそうに隣で目を細めた。
清志さんも、と差し出されたそれは、キウイの酸味とマンゴーの甘味が効いた爽やかな味がする。このレシピはやはり正解だった。また作ってやろう。
残りを一気に飲み干し、ごちそうさまでした、とにこにこと笑う。
「機嫌、直ったか?」
「ふふ、今度は絶対ちゃんと起きますから!清志さんより早く起きて、準備しとけば大丈夫」
「それは、ダメだ… 」
なんで?と言う顔で俺を不思議そうに見上げる。
「俺がお前を起こす」
「でも、それじゃぁまたわたしのこと、置いていくんじゃないですか?…」
「…… 寝顔を見られたくない」
ぽそりと本音を零す。
「え?」
「だから」
「お前に俺の間抜けな寝顔を見られたくない」
目を丸めて俺を見つめるなまえは、ゆっくりと笑みを作ったかと思うと、肩を揺らしてくつくつと笑い出した。
「えー…何度も見ちゃいましたけど……」
ひと呼吸おいて、瞳に楽しげな色をのせ
「ものすごく、ものすごーく、かわい…っ」
最後まで言わせずに口を塞いだ。両手で頬を包み舌で乱暴にこじ開け、熱帯の果物の濃厚な香りを含んだ舌を荒々しく味わう。俺の肘をぱんぱんと力なく叩いて抵抗しながらも必死で受け入れているなまえの首すじが、だんだんと朱に染まっていく。