第1章 1
ゆっくりと唇を離し、それ以上言ったらまたするぞ、と囁いた。
「もう…!」
掴んだ肘をパッとはなしてずるい!と口を尖らせる。上気した顔を冷ますようにグラスを頬にあてながら、悪戯っぽい目をして大丈夫です。誰にも言いませんから、と言いながら俺の首に腕を巻きつけてきた。
「清志さん、かわいいものは大好きなのに、自分が可愛いって言われるのは嫌なんですか?」
「フン、それとこれとは全く別だ」
頭を撫でながらグラスを取り上げ、サイドテールへと戻す。
「俺は可愛らしいものを愛でたいのであって、自分が可愛くなりたいわけじゃない」
「私にとっては、かっこいいし、可愛いですけど」
「っ、そうか…」
突然言葉にされて少し戸惑う。
「お前も、その、あれだ。可愛いし、き、綺麗だ」
自分でも耳が赤くなったのがわかって、目を逸らして壁を見つめながら答えた。少し息をのんで俺を見たなまえは、何も言わずに回した腕に力を込め、首すじに栗色の頭を埋めてきた。その仕草に心臓がきゅ、と音を立てる。
さっきのキスで燻っていた火にまた勢いをつけられてしまう。
29にもなって、と少し呆れながら。
すやすやと寝ているのを起こしたくないと思い、笑顔を見るためにいそいそと手作りのジュースを届け、甘いしぐさに何度でも欲情する。
背中に回した左手の指先が、明らかに意志を持って動き出す。滑らかにラインをなぞり上へ上へと登っていく。髪を撫で耳元に口を寄せ、
「昨日の続き、するぞ」
耳たぶをかり、と噛んだ。
朝陽がやっと細く差し込んできはじめ、シーツが影と光にくっきりと分かれる。
甘い果物の香りを含んだなまえの声を聴きながら、そっとカーテンを閉じて光を追い出した。