《モブサイ》サギ師のあなたに脱がされて (霊幻/R18)
第4章 チョコより甘く愛されて
「ん? どうした、ゆめ? 都合でも悪いか?」
「いえ。でも、私一人じゃ自信ないし……」
「大丈夫だよ、ゆめさん。もし強い悪霊がいたら霊幻師匠が除霊してくれるから」
バイト代の300円をポケットにしまいながら、モブくんが微笑む。
「あ……そっか!」
よく考えたら、そうだった。霊幻さんがいれば問題ないんだった。
エクボがうしろでぽつんと呟く。
「霊幻のヤローにゃ除霊なんて無理だろ。こいつはサギ――」
「ん? エクボ、何かいった?」
「いや……」
霊幻さんが荷物をまとめる。
「心配いらないぞ、ゆめ。俺には確信がある。今回の依頼はたぶん霊じゃない。物理的な現象だ」
「物理的な現象?」
霊幻さんは頷いた。
「あの依頼者の家では奇妙な音が聞こえたり、部屋が揺れたりするらしい。いわゆるポルターガイストってやつだ」
「じゃあ、霊のしわざですよね?」
「いや、霊だけが原因じゃない。建付けがおかしいとか、地盤が沈んで床が傾いてるとか、近くで工事しているとか、風の吹き込む具合とか、もしかしたら電気系統がおかしいのかもしれない」
まさかそれを調べる気? 霊が関係ないなら私たちの仕事ではないんじゃないの!?
霊幻さんは私の表情から言いたいことを読み取ったようだ。
「いいか、ゆめ。ここは霊『とか』相談所だ。困ってるっていうなら原因はなんであれ解決する。依頼人の希望は絶対だ」
「はぁ……」
「あっ、もちろん解決には霊能力も必要だぞ! でも心配するな。なんといってもこの俺は霊能界の新星、霊幻新隆様だからな!」
「わかりました……」
霊幻さんの頭の中にはやっぱり仕事のことしかないらしい。バレンタインに私と甘い時間を過ごすなんて考えもしないのだろう。
バッグの中には霊幻さんに渡すチョコも入っているんだけどな……。
「よし、施錠するぞ。みんな外に出ろ」
2月の北風が吹きすさぶ中、私たちは震えながら相談所を出た。