第1章 時空を超えて
客2「あれは、関わらないほうがいい」
(え......?一体何が......)
顔を上げたその時、店の奥から酔った男の大きな声が響いてきた。
そして...。
???「騒がしいやつだな」
男 「あ?」
食事処「四季」の店内でくだをまく男に声をかけたのは、手前の机に腰かける、若い男性だった。
男 「おい、何すかしてんだよ」
伏せられた長いまつ毛が上がると、酔った男も一瞬だけ見惚れたように動きを止める。
机を叩かれても動じる様子もなく、男性は酒を呑んでいた。
???「弱いやつほどよく吠えるというのは、本当だな」
男 「な......っ」
男の顔がかあっと赤く染まっていく。
???「酒もうまく呑めないのか?」
(あ......)
男性の口元に笑みがにじむと、酔った男が唇をかんだ。
男 「お前......」
その手が胸ぐらをつかもうと、男性へと伸びる。
(危ない......っ)
思わず足を踏み出しそうになった、その時...。
???「手を出すな」
男性の低く鋭い声が、酔った男の動きを制する。
その声音で店の中の空気に、先ほどまでとは異なる緊張がはしる。
???「忠告はした。俺に触れたらどうなるか......。試してみるか?」
男 「......ちっ」
その気迫に酔いが覚めたように、男は店を出ていった。
(すごい......)
入口近くでただ立っているしか出来なかった私は、息を呑む。
(言葉だけで、追い払ってしまうなんて)
思わず視線を向けると、その男性と目が合った。
???「なんだ、見世物じゃないぞ」
笑みを浮かべるその姿に、私は慌てて答える。
瑞希「すみません、そんなつもりじゃ」
すると今度は面白そうにくすっと笑みをこぼし、男性が頬杖をついた。
???「お前も飲みに、付き合うか?」
瑞希「いいえ、私は......」
首を横に振ると、男性がふっと目を細める。
???「残念だな。ではせめて名前だけでも聞いておこう」
瑞希「あの......瑞希、です」
視線を受け止め答えると、やがて男性が立ち上がった。
ケイキ「俺の名は、ケイキだ」
そうして笑みを浮かべると、告げる。
ケイキ「次は断るなよ、瑞希」