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幕末の華

第1章 時空を超えて


ケイキさんと話を終えた後、私は女将さんにあいさつへと向かった。

女将さんと話をすると、食事処四季で住み込みとして働くことを快く了承してくれた。

(良かった......)

お店を切り盛りする女将さんは高齢で、すぐにでも人手がほしかったのだという。

(とにかくこれで、食べ物と寝る場所は確保できたけど......)

あてがわれた部屋で、私はようやく息をついていた。

瑞希「何で、こんなことになったんだろう......」

おもわずこぼしたつぶやきが、何もない部屋に小さく響いていく。

(まだ混乱していて、何も考えられないけれど、今までにここで、出会った人たちって......)

目を閉じると脳裏に、龍馬さんや土方さん、ケイキさんの姿がよぎった。

(名前を聞いたことがあるような気がするけど......まさか、ね)

考えながら、壁に背をもたれかける。

すると床に置いたカバンが目の端に止まった。

瑞希「............」

(そうだ.......)

私は手を伸ばし、カバンの中を探る。

(この中に、何か手がかりがあるかもしれない)

しかしその中身は、いつもと変わりがなかった。

ただ、一つをのぞいては...。

瑞希「これは、あの時の......」

手に取ったのは、あの時居酒屋『池田屋』の階段に落ちていた手紙だった。

(やっぱり、見覚えはないけれど......何か気になるな)

私はそっと、その手紙を開いてみる。

すると...。

瑞希「あ......」

そこから、一枚の桜の花びらがひらりと落ちた。

指先でその花びらをつまみ上げると私は手紙へと視線を落とした。

書かれている文字は雨に打たれたのか、そのほとんどが滲んで読めなかった。

瑞希「............」

しかし最後の一文だけがかろうじて読める。

そこには、こう記されていた。

『瑞希......愛してる』

(っ......え)

そこに書かれた自分の名前と言葉に、鼓動がかすかに跳ねる。

手紙に視線を落としたまま、私は小さく息を呑んだ。

(どうして、ここに私の名前が?)

瑞希「これは......」

(これはいったい、だれからの手紙なの......?)

手紙にかかる指先が、わずかに音を立てた。


































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