第1章 時空を超えて
すると横で話を聞いていた土方さんが、頭をかきながら呟く。
土方「面倒くせえな......何で俺が」
ユキちゃんは土方さんに、道案内を頼んでいたのだった。
ユキ「どうせ通り道じゃない。おまけしてあげるから、よろしくね♪」
土方「......おまけねえ」
土方さんが静かにため息をついた。』
瑞希「...........」
(確かに、ユキちゃんの言う通りだ。このまま、何もせずお世話になるだけではいられない)
私は足を踏み出すと、大きく息を吸い込む。
(とにかく、一度この状況を整理しなくちゃ......)
そうして考えながら歩いていると、少し先を歩く土方さんが足を止め振り返った。
土方「おい。早くしねえと置いていくぞ」
瑞希「あ。はい......」
私は慌てて駆け寄っていく。
すると土方さんが私をじっと見下ろし、呟くように言った。
土方「......おまえって、亀みてえだな」
瑞希「亀、ですか?」
(それって、歩みが遅いってことだよね)
瑞希「............」
わずかに眉を寄せると、見下ろす土方さんが、おもしろそうに口元をほころばせた。
土方「褒め言葉だろ」
(あ......)
その表情に、思わず鼓動が跳ねる。
(土方さんって......怖そうに見えるけれど、本当は違うのかもしれないな)
そうして道を歩いていくと、やがて土方さんが一軒の店の前で足を止めた。
土方「ここだ」
見上げるとのれんには確かに、小さく食事処「四季」と書いてある。
土方「俺の仕事はここまでだ。後は上手くやれよ」
瑞希「.......はい」
それだけを言うと、土方さんはすぐに背中を向けた。
私は慌ててその後ろ姿に声をかける。
瑞希「土方さん、ありがとうございました」
土方「............」
すると小さく振り返った土方さんが、口の端に笑みを浮かべて告げた。
土方「働くときは、のろのろすんじゃねえぞ」
瑞希「......っ」
そのからかうような口調に、私の頬がわずかに赤く染まった。
土方さんを見送ると、私は一人のれんを上げた。
その時不意に、お店を出ていく人たちの小さな話し声が聞こえてくる。
客1「昼間から、好き放題してやがるな」