第1章 時空を超えて
呆れたようにため息をつき、やがて男性が言う。
???「呆けるより先に言うことがあんだろって言ってんだよ」
それは聞きなれた、口調だった。
(私が聞き取れるように、言い直してくれたんだ......。それにこの人が、倒れていた私を助けてくれたってことだよね)
私は改めて頭を下げると、告げる。
瑞希「......ありがとうございました」
そうして静かに頭を上げ、私は気になっていたことを尋ねた。
瑞希「......あの、池田屋はどこですか?私はどうして......」
???「池田屋?」
瑞希「私がいたはずの、居酒屋なんですけど......」
戸惑うまま口にすると、男性が再び呆れたように息をつく。
???「......何言ってんだ、お前」
そしてそのまま背を向けると、真っ直ぐに歩いて行ってしまった。
(そんな......。こんなところに一人で置いて行かれたら......)
私は迷いながらも、その後ろ姿を追って足を踏み出した。
やがて男性がぴたりと足を止め、ある建物を見上げる。
???「池田屋は、ここだ」
瑞希「え......?」
(ここが......)
見上げるとその建物には確かに「池田屋」の看板がかかっている。
(でも......)
そこは私がいたはずの居酒屋とは全く違った。
(......私がいた居酒屋は、どこに行ってしまったの?私は今、一体どこに......)
顔色を真っ青にしたまま、私は視線をうつむかせる。
???「......おい」
男性の呼び声が聞こえた、その時...。
???「あら、なあに、その着物!新しいわね!!」
(え......)
声が聞こえ振り返ると、そこにはすらりと背の高い男性の姿があった。
???「ユキ...」
ユキ「もしかして龍馬さんの連れかしら」
ユキと呼ばれた男性が、にっこりと笑みを浮かべる。
龍馬「馬鹿言うな」
男性はわずかに頬を赤らめ、背を向けた。
そして思いついたように、口を開く。
龍馬「ちょうどよかった。ユキ、こいつのこと頼む」
ユキ「え?この子、誰なの?」
龍馬「知らねえよ、拾った」
男性は私へと視線を向け、小さく首を傾げ尋ねた。
龍馬「そういや、名は何て言うんだ?」
瑞希「あ、あの...瑞希、です」