第3章 坂本龍馬編☆第一話♡
やがて遠く、揺れる灯りのようなものが見えた。
瑞希「龍馬さ......」
声をかけようとすると、私の言葉を遮り龍馬さんが口を開く。
龍馬「ちょっと黙ってろ」
瑞希「............」
その低い声に、私は微かにむっと眉を寄せた。
(なにも、そんな言い方をしなくてもいいのに......)
龍馬「............」
じっと見つめるものの、龍馬さんは何も言わないままだった。
(......私はもう、帰った方がいいのかもしれない)
(もしかしたら龍馬さんは、だれかと待ち合わせをしていたのかもしれないし)
息をつくと、今度は小さな声で龍馬さんに呼びかけた。
瑞希「......じゃあ、私はこれで」
そうして静かに足を踏み出し、龍馬さんの脇を歩き去ろうとした瞬間...。
龍馬「おい。待て」
龍馬さんが、わずかに慌てたように私を引き止めた。
龍馬「今おんしが行けば、もっとややこしいことになるちや」
瑞希「え......?」
思わず足を止め見上げると、
不機嫌そうに口を結んだ龍馬さんの顔が見える。
瑞希「......あの、今なんて」
尋ねかけたその時、龍馬さんの手が私の腕を軽く掴んだ。
瑞希「え......っ」
突然に腕を引かれ驚きに小さく目を見開くと、龍馬さんが告げる。
龍馬「こっち」
ゆっくりと昇った朝陽が辺りを照らし始めていた。
地面に伸びた影が、くっきりと浮かんでいる。
龍馬さんが私の腕を掴み、
帰る方向とは反対に、桜の方へと向かっていく。
瑞希「......龍馬さん?」
龍馬「............」
呼びかけるものの、龍馬さんは黙ったまま私の腕を引き、歩いていた。
(一体、何なんだろう......)
私は眉を寄せ、龍馬さんに掴まれた方の腕を抵抗するように引っ張った。
瑞希「あの、龍馬さん......っ」
龍馬「............」
もう一度名前を呼ぶと、龍馬さんが不機嫌そうに視線を向けた。
そしてぐいっと力を込めて、腕を引き寄せる。
(え......)
龍馬さんが片手を桜の木につけ、私の身体を囲う。
姿を隠すように龍馬さんが私の方へと身を寄せると、距離が近づいた。
瑞希「っ......」
触れそうなほどの近さに、私は思わず息を呑む。
龍馬「口、閉じてろ」