第3章 坂本龍馬編☆第一話♡
手のひらの桜の花びらをもう一度握りしめると、私は静かに振り返る。
瑞希「............」
(今、名前を呼ばれたような気がする......)
するとそこには、見知った人の姿があった。
龍馬「あ」
瑞希「あ......」
私と龍馬さんはお互いに、驚いたように声をあげる。
(龍馬、さん......?)
桜の花だけがざわめく静寂の中で、鼓動が音を立てるのを感じた。
龍馬「............」
やがて眉を寄せた龍馬さんが、小首を傾げて口を開く。
龍馬「また、お前かよ」
(え......?)
その言葉に我に返ったように息を呑み、私は顔を上げる。
そして龍馬さんを見上げると、戸惑いながらも尋ねた。
瑞希「龍馬さん、どうしてここに......」
龍馬「それは俺の台詞だろ」
お互いに言葉を口にし合うと、ただ視線が重なる。
その瞬間再び、桜の花びらを揺らす風が吹いた。
(でも、なぜかな......)
私の目に龍馬さんの揺れる髪が映っている。
(私は、龍馬さんが来るような気がしていた)
その髪の端が月明かりに、わずかに透けて見えた。
龍馬「............」
不機嫌そうに眉を寄せると大きくため息をつき、
龍馬さんがふいっと顔を背ける。
龍馬「変なとこでばっか会うな」
瑞希「そうですね......」
ちらりと横目で、私の様子を窺うと低い声で言った。
龍馬「お前、疫病神じゃねえだろうな」
瑞希「っ......」
(な......)
龍馬さんの言葉に、私もわずかに眉を寄せる。
(疫病神って......)
瑞希「そんなこと......」
思わず眉を寄せると、龍馬さんが言う。
龍馬「お前と会うときは、ろくなことねえんだよな」
言い返そうとした、その時...。
龍馬「............」
龍馬さんがぴくりと眉を寄せ、私から視線を逸らした。
(え......?)
龍馬さんが何かに気付いたように小さく振り返り、
後ろの方へとじっと視線を向ける。
瑞希「......?」
(......どうしたんだろう?)
私も懐に手紙を仕舞うと、龍馬さんと同じ方へと視線を凝らした。
すると微かに、その先から足音が響いてくるような気配がする。
(誰か、来るのかな......)