第2章 出会いと恋の始まり
空になったお銚子を受け取ると、私は台所へと向かった。
するとその途中、近づいてきた篠宮君がこっそりと言う。
篠宮「あいつさ」
(え......?)
視線を追うと、それはケイキさんへと向けられていた。
篠宮「さっきから飲んでばっかりなんだよ。何か食えばいいのに」
瑞希「............」
篠宮君の言葉に、私も静かに振り返りケイキさんを見る。
(なぜだろう。ケイキさんがお酒を呑む姿は、少しだけ......寂しく、見える)
考えると、胸の奥がわずかに痛んだ。
台所から戻った私は、ケイキさんの席にそっと卵焼きを置いた。
ケイキ「......頼んでいないが?」
顔を上げ首を傾げるケイキさんに、私は言う。
瑞希「......私が作ったものなのですが、良ければ食べてみてください。何か食べないと、体に悪いですから 」
(余計な事かもしれないけれど......)
ケイキ「.............」
ケイキさんは私をじっと見つめると、やがて笑みをこぼした。
ケイキ「......身体に悪い、か。なるほどな]
そして机に頬杖をつき、手の中の杯を見下ろす。
その唇には、皮肉めいた笑みが浮かんでいた。
ケイキ「その方が都合がいい人間は、たくさんいるからな」
瑞希「............」
(そんな......体に悪いほうが、喜ぶだなんて)
ケイキさんの口から出た言葉に、私は慌てて声を上げる。
瑞希「そんなこと、言わないでください」
ケイキ「...........」
私の声に、ケイキさんがぴくりと視線を上げた。
(あ......)
私はケイキさんの視線を受け止め、わずかに息を呑みながらも言う。
瑞希「......少なくとも、私は健康に飲むお酒が一番おいしいと思います」
ケイキ「..................なるほど」
私の言葉に、ケイキさんが笑いだした。
ケイキ「酒の味か」
くすくすと笑うケイキさんの声が、耳に響く。
瑞希「あの、今のは......」
ケイキさんのその様子に、私はわずかに頬を赤く染めた。
(やっぱり、余計なお世話だったかもしれない)
やがて、ケイキさんの低い呟きが耳に届く。
ケイキ「いや......」