第1章 時空を超えて
(でも、起こさないと他のお客さんも驚くだろうし......)
瑞希「土方さん、起きてください」
揺り起こそうと、手を伸ばすと...。
瑞希「っ......」
私の手を取り、土方さんが薄く目を開けた。
つかまれた手首の感触に、鼓動が音を立てて跳ねる。
土方「......なんだよ」
土方さんの低い声音に、私は慌てて口を開いた。
瑞希「土方さんこそ、どうしてこんなところに......」
すると欠神を浮かべる土方さんが私の手を放し、ゆっくりと起き上がる。
土方「あっちじゃ、落ち着いて寝られねえんだよ」
小さく首を傾げると、頭をかく土方さんが寝起きの目のまま私を見た。
土方「............」
瑞希「......どうかしましたか?」
土方「いや......」
土方さんの視線が逸れた、その時...。
のれんをくぐり、新しいお客さんがお店の中に入ってきた。
瑞希「いらっしゃ......あ」
振り返り見ると、私は息を呑む。
龍馬「あ......」
龍馬さんも私に気付き、動きを止めた。
龍馬「何でお前がここに......」
わずかに驚いたように呟くと、龍馬さんはすぐにぴくりと眉を寄せる。
龍馬「............」
(え......?)
視線を追うと、その眼は土方さんへと向けられていた。
二人の間に、どこか肌を刺すような空気が流れる。
土方「坂本か......」
龍馬「土方やねや......」
(二人は、知り合いなのかな)
瑞希「あの......」
その空気に耐え切れずに、口を開きかけたその時...。
ケイキ「ずいぶんな雰囲気だな」
瑞希「あ」
のれんを上げ現れた男性の姿に、私ははっと顔を上げる。
(この方は確か、ケイキさん......だよね)
店に入ると、ケイキさんが私をまじまじと見降ろした。
ケイキ「お前はここの娘だったのか」
瑞希「いえ、娘ではないのですが......」
説明しようとすると、何かに気付いたケイキさんが目を細める。
ケイキ「......ああ、何か違うと思ったら」
瑞希「え......っ」
伸ばされたケイキさんの指先が、私の頬を優しく包んだ。
顔を上向かされると、私は驚きに目を瞬かせる。
ケイキ「紅をつけているのか。女は紅ひとつで印象が変わるものだな」