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【イケメン戦国】月の兎は冬に焦がれる

第7章 実利主義





置き方を間違ってはいけない、と先程の彼のお膳をチラ見しながら。
手前の左側に主食、右側に汁椀…あれ、真ん中の香の物が無いな?
周りのお膳を確認すると、漬物は無くて正解のようだった。
そうこうしている間にも、彼はこちらをじっと見ている。




何か勘づかれただろうか、とヒヤリとするも…
どうせ、もうすぐネタばらしだ。
佐助くんもどこかに居るんだろうし、と堂々としておく事にする。
出来た、と顔を上げた先、上座にいた信長様の鋭い目がふわり、と柔らかな表情に変わった。



「信長様!お待たせしました」
「全くだ。鞠…貴様、今更胡瓜を採りに行っていたのか?」


「もう、違います!

皆さん、今日は漬物を作ったので宜しければ…」








なるほど、だから香の物の小皿が無かったのか、なんて。
そんな考えはその時には、とうに消え去っていた。
聞き覚えのある声に、錆び付いた機械が音を立てるような不自然な動きで、振り返る。


煌びやかな着物を身にまとった彼女もまた、こちらを見ていた。
不自然なまでに目を見開き、それまでにこやかに発していた言葉を止めて。





「鞠さん、」





私が漸くの思いで発した声に、彼女はぼとり、と持っていた皿を落とした。
夏の色鮮やかな漬物が、ばらばらと散らばる。
そして間髪入れず、聞いたこともないような甲高い叫び声を上げ、彼女は膝から崩れ落ちる。




「鞠、どうした!?」




皆が心配げに鞠さんに駆け寄るのを、私は何処か他人事の様に見ている。
彼女は取り乱したままの必死の形相ながら、震える手を掲げ私を真っ直ぐに指さした。


狂気的にも見える表情から受け取るのは、憎悪や恐怖。
──あぁ、やっぱり、恨まれてたんだなぁ…



私もまた動転していたのだろう、ふわり、とその場に崩れ落ち、意識を飛ばす。
最後に見たのは、あの琥珀色の美しい目をした彼が駆け寄ってくる姿だった。



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