【降谷零・安室透】そばにいさせて《ゼロの執行人編》
第2章 ゼロの執行人
降谷はさくらとの通話を切ると負傷した左肩を押さえたまま歩き出す。爆発により破壊された国際会議場の中を瓦礫を避けながら進み、スマホに送られてきた地図で合流地点を確認する。国際会議場から脱出し、指定された場所に向かうとそこは海辺で、真っ暗な闇の中にひっそりとクルーザーが停泊していた。
「降谷さん、お疲れ様です」
「二宮もご苦労だったな」
「って、怪我してるじゃないですか。ここに座ってください」
クルーザーの側に立っていた二宮は降谷を中に案内して椅子に座らせる。暗闇の上に降谷は黒いジャケットを着ているため分かりにくかったが、鉄の匂いがして白いインナーにも血が着いているのが分かる。
「失礼します」
二宮は降谷のジャケットを脱がせると顔を顰める。
「すごい出血ですよ……よく歩いて来れましたね。染みますからね」
「はは、気が張ってるからかな。痛みはあんまり感じないんだ」
「ああ、もうっ、すぐに応急処置してから向かいますからね」
へらりと気の抜けた笑みを向ける降谷に二宮は呆れたように返す。目の前の上司のことはとても尊敬しているし、憧れでもある。時々見せるこういう人間くさい表情はこの人も人間だったんだな、と思えてどこか安心さえするが、あまりにも自分を顧みないので心配になってきた。
「二宮も成長したなぁ」
「んなこと言ってる場合ですか」
こんなやりとりを風見に見らたら確実に怒られる。二宮はそう思いつつも軽口を叩くのを止められない。二宮はすばやく応急処置を行うと運転席に向かい、座っている降谷をチラリと振り返った。
「飛ばすんで右手でしっかり捕まっててくださいね」
二宮は前を向くとクルーザーを発進させる。水しぶきを上げながら飛ぶように夜の海を進んでいく。対岸に着くと車に乗り換え、警察病院へと急いだ。