【降谷零・安室透】そばにいさせて《ゼロの執行人編》
第2章 ゼロの執行人
エッジオブオーシャンに 到着した降谷の車はコナンが指定した建築中のビルに向かい、資材運搬用のエレベーターにRX-7ごと乗り込む。
エレベーターが上昇する中、コナンは降谷から転送されたNAZUのデータをスマホでチェックし、エッジオブオーシャンの公式サイトでカジノタワーの詳細を確認する。
「間に合うのか?」
「このビルの高さと、カジノタワーまでの距離を考えると……あと1分後にここから加速できれば……」
コナンはそう言ってスマホのタイマーを1分で設定する。スタートをタップするとカウントダウンが始まった。
「……蘭!!」
気づいたらコナンは絞り出すような声でその名前を呟いていた。降谷はコナンへ笑みを向ける。
「何?」
「……愛の力は偉大だな」
「え?」
コナンは思わず間の抜けた声を出し、怪訝そうな表情で降谷を見ていると、エレベーターは最上階に着いた。
降谷はエレベーターから出て左に曲がった所で車を停める。ヘッドライトが真っ暗なフロアを照らすと建設途中の鉄骨が浮かび上がる。
RX-7の低く重いエンジン音が響く中、コナンはメガネとスマホをチェックして、ふとコナンの口から疑問が滑り落ちた。
「前から聞きたかったんだけど、安室さんって彼女いるの?澪さんといい感じだなって思ったんだけど」
降谷は少し考えてフン、と鼻をこすった。そして、右手にをハンドルに滑らせて柔らかく添え、左手でギアを優しく包み込む。まるで愛しいものにするような手つきだった。
「僕の恋人は……この国さ」
ニヤリと微笑む降谷を見て、コナンはポアロの前で言われたことを思い出した。
『僕には命に代えても守らなくてはならないものがあるからさ』
私立探偵、公安警察、黒ずくめの組織の一員、トリプルフェイスを持つこの男は、コナンとはまた違う場所で戦っているのだ。
コナンは同時にさくらの言葉も思い出していた。
『降谷さんだけじゃない。私にも……風見さんや二宮君にも守らなければいけないものがある、ただそれだけよ』
まったくこの2人は……コナンは漏れ出そうになる言葉を飲み込んだ。