第4章 遭遇
「可愛らしいのね。今日も色んな男から声掛けられて、大変だったんじゃないかしら。執事さんも大変ね」
「いえ、そんな」
「謙遜なさらなくても良いのよ、クロエさん。そうそう、私のことは皆マダム・レッドと呼ぶわ。あなたもそう呼んで頂戴な」
「はい」
「仲良くしましょう」
マダム・レッドの手が私の頰に触れようとしたそのとき、ロナルドが更に私の体を引き寄せた。
「人の目がありますので、場所を移しませんか」
ロナルドの声がいつもより低く響いた。
「それもそうね。今日の注目の的が二人も揃ってたんじゃ、目立ち過ぎるものね」
会場を後にし、人気の無い所まで来た。
妙に重い空気が流れている。
私には一体何が起きているのかわからなかった。
その静寂を破ったのは、私の聞き慣れない声だった。
「アンタみたいなのとこんな所で出くわすなんてネ」
その声の主は、マダム・レッドの執事の男だった。
「気付きませんでしたか、嗅ぎ回ってたのは俺だけじゃないっスよ。サトクリフ先輩」
マダム・レッドの執事の容姿が、見る見るうちに変貌していった。
黒かったはずの髪は赤く染まり、自信なさげだった表情は狂気に満ちたものとなった。
この光景に既視感があった。
12年後の世界で何度も見た、あの夢。それに“彼”は出て来ていた。
「アタシが気付かないとでも? だけど、こんなに近付いて来られた死神は他にいなかったわよ」
「別に近付けなかったわけじゃないと思いますよ。ただ、あんたを泳がせておきたかったんじゃないスかね」
「何の為?」
「確実な“ルール違反”の証拠を集める為」
マダム・レッドの執事だった男が、機械音を立てて何かを振り上げた。
それが何か、一瞬にしてわかってしまった。
ロナルドが持つのと同じ、デスサイズ。
彼の持つそれは、チェーンソーの形をしていた。
「それにしても、どうしてアンタなのよ」
「俺でガッカリしてます?」
「当たり前じゃない! しかも何? 子猫ちゃんなんか連れて」
「可愛いっしょ。くれっていわれても、渡しませんよ」
「要らないわよ! そんな、いけすかない子猫なんて」
赤い死神が、こちらへ近付いて来た。