第4章 遭遇
会場に無事潜入した私達は、令嬢と執事として、その場をやり過ごしていた。
令嬢らしい振る舞いというのが今ひとつわからないでいたが、着慣れないドレスによるぎこちない動きが、逆にそれっぽさを出していたようだ。
ロナルドと距離をあけて立っていると、私の周りはたちまち紳士達で埋め尽くされた。
どんな質問をされようとも、答え方がわからないので笑って誤魔化すしかなかった。
私のことを強く気に入った一人の紳士が、慣れない私の為にエスコートをし始めた。
このままでは、ロナルドとはぐれてしまう。
私は背伸びをして、こちらを見ていたロナルドに目配せをすると、すぐに駆けつけてくれた。
「お嬢様、旦那様がお呼びでいらっしゃいます」
そして、人目につかない場所へ避難した。
「見てたなら、もう少し早く来てくれれば良かったのに」
「楽しそうにしてる所に水を差すわけにもいかないっしょ」
「楽しそう?」
「いいんだよ。こういう場なんてなかなか来られないんだし、思う存分堪能してくれれば」
ロナルドはそっぽを向いていた。
「……怒ってる?」
「誰が」
「やっぱり怒ってる……」
「怒ってないし」
明らかに不機嫌だ。
「ごめんなさい。私の為の潜入調査でもあるのに」
「そういうことじゃないだろ」
「じゃあ何?」
私の質問に、ロナルドは狼狽えていた。
「……何でも良いから、勝手にどっか行ったりすんなよ」
「わかった」
会場へ戻ると、一人の女性が注目を集めていた。
その女性は、真っ赤なドレスを着てソファに座っている。
私は彼女のその姿に、目を奪われてしまった。
「ねぇロナルド。あの人、すごく……」
ロナルドは、前を見据えていた。
赤い女性の、もう少し先に視線を向けているようだ。
その目は先程までのとは違い、何かを見定めているような鋭さを持っていた。
目線はそのまま、ロナルドの手が私の腰の付近へと触れた。
彼の手に徐々に力が入り、抱き寄せられる形となった。
赤い女性がこちらを見た。すると同時に、彼女は立ち上がり、執事らしき男と共にこちらへ向かって歩いてきた。
「あなた、お名前は?」
赤い女性が私に話し掛ける。
「クロエです」
私は答える。