第4章 遭遇
エマは腕時計を確認すると、もうすぐ時間だと言って、私を部屋から連れ出した。
外へ出るまでの間に、エマから今日の仕事について簡単な説明を受けた。
これから乗り込む社交界には、中流階級から上流階級、中には貴族の参加もあるという。
私は令嬢を装い、ロナルドはその執事として行動を共にする。
「ロナルドが一人で潜入するより、彼も動きやすいと思うから。クロエは仕事だって気にし過ぎずに、軽い気持ちでいると良いわ」
外へ出て、昨日と同じ小道を歩いて行くと、その先に誰かが立っているのが見えた。
真っ黒な燕尾服に身を包み、いつも開けているフロントを閉め、更に髪を後ろに流して固めたロナルドだった。
彼の雰囲気の違いに、驚嘆した。
「さ、お嬢様」
そう言ってロナルドは、白い手袋をした手を私の前へ差し出した。
私は彼のその手の上へ、自分の手を乗せる。
「すごく似合ってるよ」
彼のその言葉に、顔が紅潮していくのがわかった。
いつものように抱きかかえられ、顔が近づくと、赤くなった頰を見られるのが恥ずかしくなって背けてしまった。
「大丈夫だよ、クロエちゃん。可愛い顔、俺にもっと見せて」
追い討ちをかけられたような感覚に、目が潤んできてしまった。
「それじゃ、行ってくるから! 報告、楽しみにしててね」
そのときエマは、自分の頰に両手を当て、ニヤニヤしていた。
そんなエマに見送られ、いつものように人間達の世界へと舞い戻る。
最初に降り立ったのは、建物の屋根の上だった。
ロナルドは、比較的水平な場所に私を下ろし、伸びをした。
「エマから少しは聞いたと思うけど、今日はここで行われる社交界に潜入する」
私達がいるのは、会場になる建物のようだ。
「そんで、ここに奴が来る」
「奴って」
「ジャック・ザ・リッパー」
潜入の話を聞いたとき、まさかとは思ったが、そのまさかだった。
急に不安になった。この件には死神が関わっているというし、むしろその犯人が死神そのものかも知れないのだ。
「怖い?」
「……ちょっと」
「だよな。でも大丈夫。クロエちゃんは俺がしっかり守るから」
ロナルドは私に向かって微笑んだ。
それは私の頰をまた赤く染めた。