第2章 生い立ち
楽しそうに話すエマを横に、私は考えてしまった。
エマがいなかったら、ロナルドは本当に自分の部屋に泊めてくれるつもりだったのだろうか、と。
顔が赤くなっていくのが自分でわかった。
「あら、どうしたのクロエ。まさかさっきの話思い返してたりした?」
エマはお見通しのようだ。
「ロナルドはあぁ見えてとても優しいわよ。だけど趣味が合コンだから、付き合うのは大変かもしれないわね」
「優しいのはわかる。見ず知らずの私に、ここまでしてくれたんだから」
「その優しさに惚れちゃったかしら」
「違う! そうじゃない!」
「惚れるのは悪いことじゃないと思うわよ?」
私は黙っていた。
「ワタシ、個人的に興味があるのよね。死神と人間の禁断の恋っていうのに」
「禁断の……恋?」
「そう。本来はそんなことあっちゃイケナイんだけど、イケナイことだからこそ、知りたいと思わない?」
「え、私は別に知りたくないかな」
「そーお? 一応過去には死神と人間の間に生まれた子っていうのもいたらしいんだけど」
「そんなことって、あり得るの?」
「ワタシもこの目で見たわけじゃないから、噂でしかないんだけれどね。でもその存在って、死神と人間の間にも、愛が芽生えることの可能性を感じない?」
「……エマは、人間に恋したことがあるの?」
「あるわよ」
「そうなの?」
「上手くいかなかったけどね!」
「……振られちゃった?」
「彼、死亡予定者リストに載ってたから」
私は返す言葉が見つからなかった。
人間の魂を回収する立場だからこそ、知ってしまった事実なのだろう。
やはり、そんな関係の死神と人間の間に愛が存在してしまっては、悲劇しか生み出さないのではないだろうか。
「ごめんなさいね! こんな感じの話がしたかったんじゃないのよ! でもね、ワタシはそこに感じた可能性を信じたいと思ったの」
「エマ」
「だからね! クロエには自分に正直にいて欲しいかな! 相談ならいつでも乗るわね」
長居しちゃった、と、エマは部屋に戻っていった。
てっきりこの部屋に泊まっていくのだと思っていたが、そういう気分でもなくなったのだろう。
私も、このまま一人で就寝することにした。