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【黒執事】スノードロップ【死神・裏】

第3章 芽生え


私は、誰かが扉を叩く音で目を覚ました。
この部屋には窓がない為、時刻がわからない。

「クロエちゃん。起きてる?」

扉の向こうにいるのは、ロナルドだった。
私は寝ぼけている頭を無理矢理働かせた。
昨夜のエマとの話が頭をよぎり、一瞬心臓が飛び跳ねたような感じがした。

「ち、ちょっと待って!」
「わかった。ゆっくりでいいよ」

私はベッドから飛び降り、洗面台で顔を洗った。
エマから借りたパジャマを脱ぎ、昨日着ていた服に着替えた。
脱いだパジャマは、とりあえず軽く丸めて、目立たない所へ置くことにした。
手ぐしで髪を整えながら、扉を開ける。

「おはよ。早くにごめん。よく眠れた?」
「うん。お陰様で」

ロナルドは昨日と同様に、スーツに身を固めていた。
私は部屋に入るよう促したが、彼はそれを止めた。

「準備が出来たら、早目にここを出たいんだよね」

今日は午前から、彼の担当地区で魂の回収の予定があるという。
私を一人待たせておくわけにはいかないと言う彼に、ついて行くことになった。
身支度を終えた私は、部屋のすぐ外で待っていたロナルドと廊下を歩き出した。

「お腹空いてるよね」
「あ、そう言えば」
「なんだよ。そんな大事なこと忘れてたのか?」
「こういうの慣れてるから」

突然歩みを止めたロナルドは、私の前に立って言った。

「そういうこと、言うな」

少し怒ったような彼の表情に、驚いて固まってしまった。

「あ、いや。違うんだよ。昨日ここに来てからも、ずっと無理してるように見えてたからさ」

無理してる、そういう風に見えてしまっていたのかと、私は俯いてしまった。

「俺らには、気なんて遣う必要ないんだからな」
「ごめんなさい」
「なんで謝るの」
「折角、私のために動いてくれたのに」
「だーかーら、いいんだっつーの! 俺は、俺がそうしたくてしただけなんだから!」

ここ数年、このような優しさに触れることがなかった私には、どう返したらいいかわからなかった。

「OK! クロエちゃん、とりあえずご飯食べよう。奢るから」
「……ありがとう」
「好きな食べ物は?」
「毎日同じような物ばっかり食べてたからな。でも、美味しかったって印象に残ってるのは……」

私は、毎日代わり映えのしない食卓を思い返していた。
その中に、ごく稀に出てきたあの食べ物は、確か。
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