第2章 残酷
「あなたのお名前は分かる?」
医者にそう訊ねられた。
「なまえ…五十鈴です…」と答えた。
「君はあそこで何をしていたか分かる?」
そう聞かれて記憶を辿ってみると記憶が全くないのだ。
「いいえ。分かりません」
そう答えると医者は
「ショックで記憶がないのか…」と呟いた。
その時、医者が言う“ショック”の意味が分からなかった。が、すぐに分かった。
喰種捜査官と呼ばれる人が私の元まで訪ねてきた。
「目が覚めたか?」
「…?」
「ごめんな。お嬢ちゃんに辛いこと言うかもしれないけど…」
その人は苦笑しながら私のこれまでしてきたことを…飼いビトの時の話してくれた。
その時の私は泣き叫ぶことしかできなかった。
そこから一体いつまで寝ていたのか分からない。上半身を起こして窓を見ると空はもう赤く染まっていた。
「きれい…」
ぽつんと呟いた。
「五十鈴」と呼ばれる声が聞こえた。
声の方を向くと真紅の大きな瞳が印象的な子が立っていた。
そして一言
「会いたかったです…!!」と言ったのだ。
全く思い出せれなくて
「…えっと、どちらさまですか…?」
私が訊ねるとその子は驚いたような顔をする。
「…そんなことはないですよね…?
僕のこと忘れるわけないです!!」
その子は叫んでここから出て行こうとしていた。
「あ、待って…!」と言って私はその子の腕を掴んだ。
その子はくるっと振り返って私を見る。
「あの、もしかして飼いビトのときの…?」
「…」
無言でその子は私をただ見ていた。
「…ご、ごめんなさい。私、酷いこと…えっと、たくさんの人を殺してきたショックみたいで…記憶がないの…」
「人を殺すことは酷い話ですか?」
キョトンとした顔でその子はそう言った。
「え…?」
私はその一言を聞いて驚いた。
「ママにたくさん褒めてくれましたよ?
酷いですかね?」
へらへらと笑うその子が怖くなって、掴んでいたその子の腕を離した。
「酷いに決まってるでしょ…?」
震える声でそう言った。
「もういいです」
その子はパタパタと廊下を走っていった。