第1章 憂鬱王子はキスをくれない.
「 今まで通りで構いませんので … 」
一応契約上そうなってる訳で仕方ないと思う
逆にみんなが黒尾さんに気を遣ってしまい
もう頼まれる事は無くなるのかもしれない
それはそれで私にとっても悪い事ではない
「 そうか?
黒尾が良いなら俺は遠慮なく美雨を呼ぶ! 」
まあそうだろうと若干予想はしていたけど
木兎くんだけはどうやら例外のようである
「 どうぞお構いなく
じゃあ今日は急ぐから先に出るわァ 」
黒尾さんは時計を見ながら慌てて立ち上がり
椅子にかけていたジャケットを羽織っている
この状況で私だけを置いていくなんて酷いな
そんな表情をして黒尾さんを見つめていると
突然 彼の顔が近づいてきて私の頬が熱くなる
黒尾さんはみんなの前で私の頬にキスをした
「 美雨、行ってくるわァ 」
「 いってらっしゃい … クロ … 」
呆然としながらも彼に手を振りながら見送る
演技だと分かっているのに私はドキドキした
唇が頬に触れた時、確かに柔らかさを感じた
まだ頬が火照っていてとろけてしまいそうだ
「 クロりん、見せつけてくれるね! 」
「 俺もはよ彼女欲しいわあ 」
「 黒尾ってやっぱやり手だよな … 」
キスを目撃した住人達の反応はそれぞれだ
月島くんと赤葦くんは相変わらず無関心で
それ以外の人はただただ驚いている様子だ
陽葵ちゃんの表情はずっと暗いままだった
付き合ってるってだけでもショックなのに
目の前であんなの見せられたら堪らないよね
あとで何か言ってフォロー出来たら良いけど
無闇矢鱈に慰めるのも逆効果かもしれない …
この件は彼女から私に話をしてくるまでは
こちらから何かを言うのはやめておこうか
私はそんな事を頭の中で勝手に考えていた